男・女

    1: ◆Memo/g4n8M 2016/07/17(日) 22:03:16 ID:bqDg.nlg


    女「すぴー……」

    男「すやすや」

    女「んー……んふ」ムギュ

    男「んぐっ……ぐぅー」

    女「んふぅ……むにゃむにゃ」

    男「すーすー」モゾ

    女「んぁっ」ビクッ

    男「すやー」


    2: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/17(日) 22:04:21 ID:bqDg.nlg


    女「……ふわぁ。……おトイレ行きたい」ムク

    カチャ パタン

    男「ぐーぐー」

    男「んあっ。……布団、離れてる……」ギュッ

    男「……すぅすぅ」

    カチャ パタン

    女「んー、寝る」ドサッ

    男「ほわぃっ?! なになに?!」ビクッ


    3: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/17(日) 22:05:25 ID:bqDg.nlg


    女「んー。大きな声ださないで」

    男「おんなか! びっくりした! 本当にびっくりした!」

    女「布団」グイッ

    男「待って。まるでそうであるとばかりに二度寝しないで」グイッ

    女「なんでぇ。だってまだ起きる時間じゃないよぉ」

    男「ここはおんなの寝る場所じゃないの。俺の布団なの」

    女「……何時?」

    男「1時」


    4: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/17(日) 22:06:46 ID:bqDg.nlg


    女「じゃあ寝る」コロン

    男「だから待ってって。違うでしょ。そうじゃないでしょ」

    女「追い出すの?」

    男「ん?」

    女「真夜中の1時に女の子を家の外に追い出すんだ」

    男「え、俺が悪者?」

    女「それでもし私が悪い怖い人に襲われたらどうするの?」

    男「どうするのって言われても……」


    5: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/17(日) 22:08:11 ID:bqDg.nlg


    女「そんなことも考えないで追い出そうとするひどい人だったんだ」

    男「でも屋根を伝って入ってきたんでしょ?」

    女「……」

    男「……」

    女「…………」

    男「…………」

    女「おやすみなさい」

    男「待てよ。話しは終わってないぞ」


    6: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/17(日) 22:09:59 ID:bqDg.nlg


    女「仕方ないじゃん! お腹空いたらポテチ食べたくなっちゃうんだもん!」

    男「俺の部屋を食料庫かなにかと勘違いしてませんか?」

    女「なのになんで置いてないのよ」

    男「自分の分として買っているのにこの言われよう。もはや気持ちいい」

    女「食べたいのに食べられなかったら、さすがの私だってふて寝するよ!」

    男「まさか真面目にその論が通じるとお思いでございますか?」

    女「だから私は寝ることで抗議をします! おやすみなさい!」

    男「あれ? ポテチあるじゃない。いつものところに」


    7: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/17(日) 22:10:59 ID:bqDg.nlg


    女「なかったもん」

    男「ほら。これ」ワシャッ

    女「ないです」

    男「あるって。見てよ。コンソメ、海苔塩、醤油わさびと」

    女「ありません」

    男「あるって」

    女「ないの!」

    男「あります!」


    8: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/17(日) 22:14:29 ID:bqDg.nlg


    女「期間限定の蜂蜜梅たまごミルク味がないの!」

    男「……」

    女「そういうこと。おやすみ」ゴロン

    男「おんなはポテチが食べたくて俺の部屋に来てるの?」

    女「……なによ」

    男「それっていかがなものでしょうか。さすがにないよね」

    女「怒ってる?」

    男「お腹が空いたらポテチ。ポテチがあるから俺の部屋。おかしくない?」


    9: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/17(日) 22:16:45 ID:bqDg.nlg


    女「それは……だって……」

    男「これからもこんなことが続くなら考え直そうか」

    女「考えなすってなにを?」

    男「おんな。真面目な話な」

    女「……うん」

    男「料理をしよう」

    女「ばっちこい」


    11: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/17(日) 22:22:43 ID:bqDg.nlg


    男「夜間のお菓子で埋まるのは欲求だけ。小腹は空いたまま。それは覚えて」

    女「うん。覚えた」

    男「本当に覚えた?」

    女「覚えました」

    男「じゃあ言ってみて」

    女「満腹中枢を刺激したいならよく噛みましょう」

    男「そうだね。全く違うね。なにもかも違うね」


    12: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/17(日) 22:23:35 ID:bqDg.nlg


    女「蜂蜜梅たまごミルク味のポテチよりもおいしいものが食べたいです」

    男「そんなにおいしかったの?」

    女「まだ食べてないから分かんない」

    男「見えない敵と闘えって、それはもうシャドーボクシングと言うのだよ」

    女「あー……目がしっかりと覚めたせいでお腹が空いたな……」

    男「寝る前だから軽食でいいよね」

    女「え?」

    男「だって空いたって言っても腹の虫が鳴くほどでは」

    女「鳴れ。お腹の虫、鳴れ。鳴け」ペチペチ

    男「えー」


    13: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/17(日) 22:24:46 ID:bqDg.nlg



    女「鳴け、鳴――」グー

    男「……鳴いた」

    女「……聞こえた?」ポッ

    男「うん、まあ、聞こえました」

    女「やー、もうやだぁ。恥ずかしいなあ……」モジモジ

    男「え? 鳴かそうとしてたのに恥ずかしがるの?」


    14: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/17(日) 22:25:38 ID:bqDg.nlg


    女「あのね。お腹が空いてます」

    男「存じております」

    女「早く台所に行きませんか?」

    男「住人を急かすとは新しいね。まあいいや、行こうか」


    20: ◆Memo/g4n8M 2016/07/17(日) 23:41:27 ID:bqDg.nlg


    ――――――
    ――――
    ――

    男「冷蔵庫は俺が見るから、外に出てる食材の確認をお願い」

    女「あるのを言えばいい?」

    男「うん。よろしく」

    女「塩、砂糖、しょうゆ、みりんと」

    男「それは食材じゃなくて調味料。缶詰や乾物にどんなのがあるかを教えてよ」


    21: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/17(日) 23:42:33 ID:bqDg.nlg


    女「私も冷蔵庫の確認したいな」

    男「食べるじゃん」

    女「食べないよ。食べるけど」

    男「食べるでしょ」

    女「食べるよ。……食べないの?」

    男「食べるよ?」

    女「でしょ。じゃあ見せてよ」

    男「うん……ん?」


    22: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/17(日) 23:43:28 ID:bqDg.nlg


    女「冷凍ご飯!」

    男「放置が過ぎるとぼろぼろになるよね」

    女「……ぼろぼろ」

    男「放置が過ぎました」

    女「ごま昆布!」

    男「甘しょっぱい昆布とごまの香ばしい香りが好きだよ」

    女「おいしい!」

    男「ほら食べた。食べちゃったじゃないか」


    23: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/17(日) 23:44:22 ID:bqDg.nlg


    女「たまご!」

    男「お米とごま昆布とたまごでちょっと豪華な卵がけご飯が出来上がるよね」

    女「かつおぶし!」

    男「さらにワンランク上の卵がけご飯を求めるあなたにおすすめ」

    女「マーガリン!」

    男「言わずとも知れた名脇役。卵がけご飯の甘さを引き立てる隠し味に使ってます」

    女「シャケ!」

    男「塩をふって焼くとご飯が足りなくなるメインディッシュ。シンプルっていいよね」


    24: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/17(日) 23:46:24 ID:bqDg.nlg


    女「まな板を準備します」

    男「はい」

    女「シャケを寝かします」

    男「はい」

    女「軽く塩をふって揉み込みます」

    男「はい。ここでのポイントはなんでしょうか?」

    女「身を崩さないように優しく優しく揉み込んであげてください」

    男「料理番組みたいな流れに便乗したものの、女がご飯作るの?」


    25: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/17(日) 23:48:20 ID:bqDg.nlg


    女「……頑張る」

    男「ほう。じゃあヘルプ以外では手は出さないよ」

    女「レモンとオリーブオイルある?」

    男「あるよ。レモンはポッカなら」

    女「えーっと、野菜室に……ニンジン、ダイコン、キュウリ……合格」

    男「何かに合格した。なんだかすごく簡単そうな審査を突破した」

    女「シャケを焼きます。焼いて」

    男「ヘルプ以外で手を貸しませんよと、ついぞさっきに」


    26: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/17(日) 23:50:21 ID:bqDg.nlg


    女「ヘルプ!」

    男「なんて都合のいい! グリルでお好みの火加減は?」

    女「弱火。じっくり焼くのが好きだから」

    男「弱火ね。はい、焼き始めました」

    女「おんなのお手軽3分クッキング!」

    男「今から? 魚の下ごしらえをする前から始めないとずるくない?」

    女「まずは冷蔵庫からぼそぼそになったお米を出します」

    男「今焼いてる魚はどうなるの?」


    27: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/17(日) 23:53:20 ID:bqDg.nlg


    女「シャケはお手軽20分クッキング」

    男「ああ、違うのね。しかも20分ってまあまあの調理時間じゃない?」

    女「ぼそぼそになったお米をお茶碗に移して少量の水を加えます」

    男「チンするとある程度ふかふかになる小技ね」

    女「2分間温めます。はい」

    男「え? これにもヘルプ?」

    女「ヘルプ!」

    男「もうなんだろうね、これ。喜んで手足になりましょう」


    28: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/17(日) 23:54:35 ID:bqDg.nlg


    女「卵と醤油とお箸の先端で僅かにつまんだマーガリンを容器に入れます」

    男「そうして?」

    女「混ぜます」

    男「ですよね。まさか3分クッキングって卵がけごはん?」

    女「はい」

    男「はい。期待を裏切らないね。おんなは」

    女「はい」

    男「はい。……どうしたの?」


    29: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/17(日) 23:55:14 ID:bqDg.nlg


    女「はい。混ぜて」

    男「ああ、俺に差し出してたのね。その意味の『はい』なのね」

    女「そうして混ぜ終わりましたら」

    男「早い早い。まだかき混ぜるためのお箸すら握ってないです」

    女「早く早く。お腹空いた」

    男「焦ってもご飯が温まらないと食べられないでしょ」シャカシャカ


    34: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 23:04:54 ID:SDqN0ILc


    チンッ

    女「炊けた」

    男「温まっただけです。2分にしては早くない?」シャカシャカ

    女「お腹が空きすぎて1分半にしました」

    男「もう30秒くらい我慢しようよ」

    女「混ぜた? 混ぜた?」

    男「混ぜました。どうぞ」


    35: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 23:06:50 ID:SDqN0ILc


    女「鰹節! ごま昆布!」

    男「ああ、やっぱり卵がけごはんになるんだね」

    女「お醤油をかけます。『いの一番』をひとつまみ分ほどぱらぱらーと……」

    男「美味しそうだね」

    女「チチチッ。美味しそうじゃないの。ちゃんと美味しいのよ」

    男「卵がけご飯の入門編みたいなレシピだもんね。醤油の量さえ間違えなければ誰でも作れるし」

    女「そういうこと言う? あげないよ?」

    男「ごめんなさい。ひと口だけでもいいのでください」


    36: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 23:08:51 ID:SDqN0ILc


    女「やはり人間は素直で奢らず謙虚で慎ましくあるべきだね。ひと口だけあげましょう」

    男「ありがとうございます」

    女「はい、あーん」

    男「……自分で食べるよ?」

    女「誰も見てないから。はい、あーん」

    男「いや、でもなんか気恥ずかしいし」

    女「あーん」

    男「……あーん。はむ……もぐもぐ」


    37: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 23:09:53 ID:SDqN0ILc


    女「ねー、美味しいねー」

    男「……お腹いっぱいです」

    女「うそ。一口で?」

    男「雰囲気で満たされました」

    女「雰囲気?」

    男「俺だけが知ることだから、おんなは美味しい卵がけご飯を食べな」

    女「なんだか上から目線。いいけどね。……もぐもぐ」

    男「でもその卵がけご飯、なんだか見た目が地味だよね」


    38: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 23:11:25 ID:SDqN0ILc


    女「もぐもぐ。茶色い鰹節に黒いゴマ昆布、ご飯は黄色くても上にあるのがね、どうしても」

    男「ご飯、足りないよね。シャケ焼いてるのに食べちゃうなんて」

    女「……炊く」

    男「これから準備すると1時間半以上かかるよ」

    女「チンする」

    男「冷蔵庫にあるご飯はそのお茶碗1膳分で終わり」

    女「だけどですが、チンして炊けるご飯が戸棚の中にあったのです」

    男「なんど目ざとい」


    39: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 23:13:04 ID:SDqN0ILc


    女「そろそろおシャケをひっくり返す時間です。でした」

    男「あっ、ちょっとだけ焦げの臭いが! やばっ!」

    女「焦げた部分は包丁で削り落とせばいいだけだから大丈夫」

    男「両面焼いてからガリガリするね。はい、ひっくり返しました」

    女「はい。食べ終わりました」

    男「……このシャケは誰のために焼いてるんだっけ?」

    女「2人分です。でした」

    男「でした、か。夜間に押し寄せる食欲はなんと強い」


    40: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 23:14:01 ID:SDqN0ILc


    女「4人分のおシャケです」

    男「そっち? 1人分じゃなくて4人分?」

    女「私とおとことお義父さまとお義母さまで4人分でございます」

    男「この切り身を4人で分けると熾烈な争いにならない?」

    女「思うでしょ。思うよね。それは焼けてからのお楽しみ」

    男「ご飯はいつチンするの?」

    女「今からチンするの」

    男「ひとつでいいよね。おんなはもう1膳食べてるし」


    41: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 23:16:50 ID:SDqN0ILc


    女「おとこならひとつ丸っと食べられるでしょ?」

    男「夜だもの。炭水化物は抑えめに」

    女「私だけ太るんだ……そうやって私だけが太っていくんだ……」

    男「おんなに合わせて俺が太る必要ってあるの?」

    女「知らないからね! おとこの気付かない間に私は太っていくんだからね!」

    男「すごい。まったく心に響かないのになんだか不思議と怖い」


    42: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 23:18:18 ID:SDqN0ILc


    女「夜にお腹が空く私の足は、気付けばこのダイコンの胴回りみたいにずっしりと」

    男「知ってた? 素直に睡眠を取るだけで解決するんだよ?」

    女「呼吸をするだけこのニンジンのように顔が赤くなり」

    男「あと間食もね。大好きだけどやめようね」

    女「でもくびれだけはこのキュウリみたいにきゅっと細く」

    男「それは都合が良す……ダイコン足にキュウリのくびれってバランス悪くない?」


    43: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 23:20:23 ID:SDqN0ILc


    女「おとこさんおとこさん。おろし金をくださいな」

    男「おろし金は一番上の引き出しに入ってるよ。ダイコンをおろすの?」

    女「ピンぶー」

    男「ピンぶー?」

    女「3分の1だけ正解したときの効果音。ピンぶー」

    男「3分の1くらいならもういっそ不正解でいいです」

    女「キュウリとニンジンもすり下ろします」

    男「そいつらも?」


    44: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 23:22:10 ID:SDqN0ILc


    女「この子たちもすり下ろすことで彩りが鮮やかになりまして」

    男「あまり見ないけどおいしいの?」

    女「おいしそうに思えないんだ。あー、そっか。男はまだ食べたことないんだ」

    男「ないねえ。味と食感がちゃんとマッチするかがすんごい不安」

    女「決めつけはダメだよ。案外美味しいかもしれないんだから」

    男「美味しいかもしれないのか。……かもしれないの?」

    女「私も食べたことないんだなあ。それが、意外と」

    男「ないんだ。まるで経験者の口ぶりだったのにないんだ」


    45: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 23:29:27 ID:SDqN0ILc


    女「すられたダイコンはいつみても綺麗だよね。見た目がみぞれみたいで冷ややかで」

    男「クールビューティだよね。なんか分かる」

    女「別の空き皿に移して、おろし金の受け皿をお水でさっと洗い流します」

    男「べつにダイコンの味が混ざったところで」

    女「その油断で取り返しがつかなくなるんです。はい、お次。ニンジンさんをごりごり」

    男「ニンジンって包丁で切るときもけっこう硬いからなあ。食感が想像できない」

    女「そう思うでしょ。でもね、削られていく彼女を見ててごらん」

    男「彼女なんだ。女の子なんだ」


    46: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 23:30:26 ID:SDqN0ILc


    女「っぽくない?」

    男「でもなんとなく分かる。確実に色合いのせいだけど」

    女「いくよ」

    男「いいよ」

    女「せーのっ」

    男「……」

    女「ぐわー! 体が削れていくー!」ガリガリガリ

    男「ひぃっ?! いきなりなに?!」


    47: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 23:36:29 ID:SDqN0ILc


    女「色からしてグロテスクに見えるかなって」

    男「これから口に入る食材でなんてことをするんだい」

    女「ニンジンはダイコンほど太くないから多めに使います」

    男「なるほどね」

    女「でも白に対しては強気に主張する色なので少なめで調整します」

    男「どっち?」

    女「適量です」

    男「そんな保身に回った適量の使い方があっただろうか」


    48: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 23:41:05 ID:SDqN0ILc


    女「すりおろしたらこの子別の小皿に入れます」

    男「いちいち新しい皿を使うのはもったいなくない?」

    女「いいの。それが料理なの。最後の出番のキュウリさん。少なめでいきます」

    男「でも多めでしょ?」

    女「白に浮かぶ赤を際立たせるためアクセント。あと少しだけ香りづけのために」

    男「本当に少なめでいいんだ」

    女「これだけ。5分の1もすらなくていいくらい」

    男「へえ。すくない」


    49: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 23:46:40 ID:SDqN0ILc


    女「ぐわーっ。からだが削れていくー」

    男「色、色が悪い。完全に地球外生命体の体液になってる」

    女「こうして地球は守られたのでした。ちゃんちゃん」

    男「いくら相手が侵略者だからって制裁がスプラッタすぎない?」

    女「そろそろシャケは焼けたました?」

    男「んーとね。焼けてるね。取り出すよ」

    女「忘れずにがりがりしてね」

    男「がりがり了解」


    50: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/19(火) 00:01:26 ID:JSXGutmA


    女「チンで炊けたご飯を盛る前に、卵がけご飯で使ったお茶碗を洗います」

    男「乾いた卵ってどうしてあんなにこびりつくんだろうね。執念だよね」

    女「そこまで乾かした経験はないです」

    男「そうですね。次回からはちゃんとすぐに洗います」

    女「がりがり終わった?」

    男「焦げは落としたよ」

    女「そしたら切り身をほぐして。ぽろぽろにバラバラに」

    男「なるほどね。それが切り身を4人で分け合う方法ね」


    51: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/19(火) 00:02:20 ID:JSXGutmA


    女「たしかジャムが入ってた空き瓶を残しておくお義母さまだったよね」

    男「そうね。便利だからって言っていつも保管してるね」

    女「必要ない分はそれに入れて冷蔵保存しておきます」

    男「母さんからすればシャケのほぐし身が冷蔵庫に突然現れたように見えるんだろうな」

    女「冷蔵庫を開けたついでに卵をひとつ取ってくださいな」

    男「……また卵? カロリーが凄いよ」

    女「また半分ずつにしよ?」

    男「さっきは俺がひと口だけです。詐称するんじゃありません。はい、どうぞ」


    52: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/19(火) 00:02:54 ID:JSXGutmA


    女「ありがと。だって美味しいんだもん。まろやかで」

    男「美味しいのは否定しないけどさ。ほどほどにね」

    女「今日だけの贅沢です。明日からは節制を誓います」

    男「3日続いたらご褒美にポテチをあげよう」

    女「……頑張る」

    男「頑張っちゃうんだ。ポテチの為の努力は完全に本末転倒でしかないけど」

    女「卵をわるんだけどね、ちょっとだけセレブっちなことしてもいい?」

    男「セレブっち?」


    53: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/19(火) 00:03:35 ID:JSXGutmA


    女「白身を捨てます」

    男「とんでもないことを言い出した。すんごいもったいないから却下」

    女「じゃあ白身だけフライパンで焼きます。違う。チンします」

    男「白身もチン?」

    女「細身のスレンダーなコップってある?」

    男「あるよ」

    女「ちょっと待ってね。半分に割った卵の殻で黄身のお手玉をしないと」

    男「食べ物であそんではいけません」


    54: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/19(火) 00:04:20 ID:JSXGutmA


    女「違います。殻のぎざぎざで白身を切り離してるだけです」

    男「ごめんなさい」

    女「はい。白身だけが綺麗に落ちました。どう? ぷるぷるの黄身」

    男「黄身だけになっただけなのに倍くらいは美味しそうに見える」

    女「白身をコップに移して15秒。チンして」

    男「たった15秒?」

    女「それで十分に固まるの。ぷるぷるに」

    男「ぷるぷるの状態は固まっていると言えるの?」


    55: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/19(火) 00:05:17 ID:JSXGutmA


    女「はい注目! おんな先生に注目!」

    男「はい、先生。白身をどうぞ」

    女「ありがとうございます。でもこれは脇に置いちゃいます」

    男「使うためにチンしたんじゃないの?」

    女「だって元々はそんな予定なかったんだもん」

    男「そうね。じゃあ細かく切って朝食のサラダに混ぜようかな」

    女「ここに野菜3種のすりおろしと黄身とご飯とほぐし身のシャケがあります」

    男「もう美味しそう。並んだ材料を眺めるだけでご飯が進みそう」


    56: ◆Memo/g4n8M 2016/07/19(火) 00:06:03 ID:JSXGutmA


    女「まず最初にお茶碗にご飯を盛りまして……さあ、どうするでしょうか?」

    男「そこに黄身を置きまして」

    女「ハズレ。ここで納豆を冷蔵庫から取り出します」

    男「ずるくない? 選択肢になかった納豆が急に出てくるってずるくない?」

    女「醤油もタレも足しません。ほぐすために数回混ぜたらお米に乗せます。どちゃっ」

    男「擬音」

    女「納豆をドーナッツ状に乗せたら、その穴に黄身を置きます。べたっ」

    男「もうちょっと擬音に気を遣おうか。俺たちが食べる物だよ」


    57: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/19(火) 00:14:30 ID:JSXGutmA


    女「シャケのほぐし身をまんべんなく全体にぽろぽろ……」

    男「これは卵がけご飯? 納豆ご飯?」

    女「卵がけ納豆ご飯。種族の壁を取り払った融和と平穏を象徴する料理になります」

    男「いいね。おいしそう。見た目で既においしそう」

    女「これに納豆のタレをかけたら?」

    男「かけたら?」


    58: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/19(火) 00:15:34 ID:JSXGutmA


    女「かけたら?」

    男「かけたら?」

    女「……かけないの?」

    男「そっち? 『どうしてかけないの?』的な疑問だったの?」

    女「かけて」

    男「かけます。タレの袋を破きまして……ダシが詰まってそうな色してるよね」

    女「そうだよね。ほんのり甘いよね。味も匂いも」

    男「そういえば卵と納豆と米でしょ。納豆のタレだけで味は足りるの?」


    59: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/19(火) 00:16:15 ID:JSXGutmA


    女「それはそうとして、混ぜて」

    男「え? 薄味だよ?」

    女「まーぜーるーのー。大丈夫」

    男「失礼いたします。そい」

    女「たくさん乗せたからもちゃもちゃ鳴ってる」

    男「擬音擬音。聞こえたままを口にされると食欲失せるよ」

    女「混ざった?」

    男「卵がけご飯に納豆が混ざり込んでる光景……これは人を選びそうだ」


    60: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/19(火) 00:17:57 ID:JSXGutmA


    女「おいしいのに?」

    男「美味しさと見てくれの良さはまた別の話しだし。俺は気にしないけど」

    女「だけどシャケだって混ざってるよ」

    男「その『だけど』でいったいどれだけの人が『じゃあ仕方ないか』って答えるとお思いで」

    女「私」

    男「うん、そうね。発案者だもんね。生みの親に否定されたらただのダークマターだもんね」


    61: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/19(火) 00:20:41 ID:JSXGutmA


    女「べっつにー好きな人だけ食べればいいですしー」

    男「ねえ。大根おろしたちの出番はいつ?」

    女「お茶碗の真ん中でも端っこでも好きな場所に乗せるだけ。そしたら完成」

    男「色の組み合わせがどうとか言ってたけど……こんなもんでいい?」

    女「完成嘘でした。おろしに醤油をちょっとだけかけて」

    男「そうだよね。このまま出来上がったら勝手に醤油を好き放題かけてました」


    62: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/19(火) 00:21:51 ID:JSXGutmA


    女「お好みでごま昆布とか、マーガリンとか」

    男「マーガリンを乗せるのはちょっと……」

    女「そうそう。マーガリンを乗せるならちょっとだけで」

    男「違います。今のちょっとは分量ではなくて、味が狂うんじゃないかっていう心配と抵抗です」

    女「……お好みだもの」

    男「え? そんな悲しげな顔をするほどだった?」

    女「……えい」

    男「あ、乗せた。後悔しても知らないよ?」


    63: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/19(火) 00:22:31 ID:JSXGutmA


    女「意地でも美味しいって言うもん……あむ」

    男「……」

    女「もぐもぐもぐ……あむ」

    男「……どう?」

    女「んー……あむ」

    男「あれ? 美味しいって言わないの?」

    女「もぐもぐもぐ……ごくん。……んふふ」

    男「なにその幸せそうな笑み。ちょっとだけちょうだい」


    64: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/19(火) 00:23:16 ID:JSXGutmA


    女「えい」

    男「うわっ。マーガリン乗っけた」

    女「これを食べたら分かるよ」

    男「……いやぁ……だってダイコンおろしに納豆に卵にマーガリンって……いやぁ……」

    女「あむ」

    男「あっ」

    女「もぐもぐもぐ……ごくん。あーあ、残念だなあ、美味しいごはんを一緒に食べられないだなんて」

    男「うぐっ」


    65: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/19(火) 00:25:27 ID:JSXGutmA


    女「……ざんねんだなあ」

    男「……食べます」

    女「言ったね。言ったね、聞いたからね。はい、あーん」

    男「あ、あーん……あむ」

    女「噛んで噛んでよく噛んで」

    男「案外……おいしい?」

    女「おろしを食べるとちょっとだけすっきりするよ。はい、あーん」

    男「そうね。あーん。もぐもぐ。うまい」


    66: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/19(火) 00:26:44 ID:JSXGutmA


    女「ね、ね? ねね? そうでしょ」

    男「んー、でもこれ。マーガリンは好き嫌いあると思うよ?」

    女「私は好きだからいいんです。マーガリンが」

    男「もうひとくちもらってもいい?」

    女「最後のひとくちしかないのに?」

    男「そう言われると気が引ける……おんなは食べたい?」

    女「おとこが食べていいよ。私の方が多く食べちゃってるし」

    男「ありがとうございます。ではフィナーレをいただきます。あむ」


    67: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/19(火) 00:28:07 ID:JSXGutmA


    女「でもさあ、今思ったんだけどね」

    男「もぐもぐ、んん?」

    女「料理っていうほどの料理じゃないよね。あまり料理感がないよね」

    男「もぐもぐもぐ……ごくん。いいんじゃない。軽食のつもりで作ったんだし」

    女「言いたくないけど、カップラーメンの方が早くておいしいと思うなあ」

    男「お湯を入れて3分待機と比べたらそりゃ勝てないよ。無理だよ」

    女「無駄という無駄を省いた洗練された3分は強いなあ……はぁ」

    男「俺はこれ食べてもカップラーメンとは比べる気にはならないけどね」


    68: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/19(火) 00:28:57 ID:JSXGutmA


    女「なんで?」

    男「だってこれはこれで美味しかったし」

    女「はー、優しいなあ。優しい彼氏を持って嬉しいですね。うりうり」

    男「なぜ脇腹を突つきますか」

    女「よし。もっと本読む。もっともっと本を読んでレパートリー増やす!」

    男「頭でっかちだなぁ」


    69: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/19(火) 00:29:42 ID:JSXGutmA


    女「ばかちんがあ。ぺんは剣よりも強し! 偉い人が言ってた」

    男「俺はもっと良い方法を知ってるけどね。女が出来るかどうかは別問題として」

    女「簡単?」

    男「簡単ではないかもしれないけど楽しいと思うよ。実際に楽しそうだったし」

    女「あー、分かった! それって、あれでしょ! ポテチ探」

    男「料理をしよう」

    女「ばっちこい」


    70: ◆Memo/g4n8M 2016/07/19(火) 00:32:12 ID:JSXGutmA

    おわり


    71: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/19(火) 01:49:21 ID:0nI4xyRk


    お腹すいた


    72: 以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/19(火) 07:02:44 ID:BKu/pyCE

    なにこれたのしい。乙。


    元スレ:http://sshouko.net/blog-entry-3088.html

    1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/01/06(日) 23:44:13.76 ID:NVRX8yZB0
    「なんで彼氏作らないの?」 

    なんてことを友達にしょっちゅう聞かれる。 
    その度に茶を濁すのは、けっこー疲れる。 
    真っ先に口をつく理由は、機会がないから。 
    恋人が爆誕するようなイベントに恵まれない。 
    それでも相手が納得しない場合は、こう言う。 

    「付き合うって、よくわかんないから」 

    クリスマスにかけて急増した大勢のカップル。 
    そいつらを眺めていると、不思議で仕方ない。 
    どうやって、相手を選んでいるのだろうか。 
    それが気になって、ちょっと聞いてみると。 

    「えっ? 告られたから、断る理由もないし」 

    なるほど。そうきたか。さっぱりわからん。 

    「もともと、付き合う気はあったの?」 
    「ちょっとはね」 
    「ちょっとって……ちょっとでいいの?」 
    「いいんじゃない? 今、すごく幸せだし」 

    ああ、そうですか。末永くお幸せに。畜生。




    2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/01/06(日) 23:47:42.87 ID:NVRX8yZB0
    「じゃあ、ちょっと質問を変えるわね」 
    「何?」 
    「彼氏が欲しいとは思わないの?」 
    「すごく幸せになれるなら、是非とも」 

    極めて自然な回答だろう。誰でも幸せを望む。 

    「そんな風に受け身だから駄目なのよ」 
    「えっ? 駄目なの?」 
    「付き合った相手の幸せも考えてあげないと」 
    「あっ……はい。すみません……」 

    友人の諫言はまさに目から鱗の至言だった。 
    自分だけ幸せになれば良いのではない。 
    いつの時代の奴隷制度だ。あり得ない。 
    付き合うならば、相手の幸せも考えないと。 

    「なんか……めんどくさいなぁ」 
    「はあ……恋人が出来る日は遠そうね」 
    「ほっといて」 

    呆れられてもこればかりはどうしようもない。 
    相手を幸せにするのは、非常に大変だろう。 
    私が喜ぶことをしても、相手が喜ぶかは不明。 
    ましてや幸せの尺度や価値観など予測不能だ。 
    我々人間は個別の自我を持っているのだから。 

    「性格が合う人を見つけたら?」 
    「そんな人、居ると思う?」 
    「せめて、もう少し、協調性があったら……」 
    「なにそれ! どういう意味!?」 
    「短気なところも直したほうがいいわね」 

    本当に耳が痛い。私だってわかってるっての。

    3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/01/06(日) 23:49:59.56 ID:NVRX8yZB0
    「悪い。先、帰っててくれ」 
    「あ、うん」 

    近頃、男友達の付き合いが悪い。 
    独りでトボトボ帰宅するのは、寂しい。 
    たぶん、彼女が出来たのだろう。 
    前に、それらしいことを口にしていた。 
    クリスマスにはデートをしたそうな。 
    そこで告白イベントでもあったのだろうか。 

    「……くそっ」 

    そこまで想像して思わず悪態を吐いてしまう。 
    帰りにゲーセンに寄ったり、マックを食べたり、公園のブランコに乗って駄弁りたいのに。 
    恋人なんてものが居るから、楽しみが減った。 
    どこの誰かは知らないけど、無性に腹が立つ。 

    「……ムカつくなぁ」 

    腹わたが煮えくり返って、ふと気づく。 

    「あれ? なんで、胸が痛いんだろ……?」 

    原因不明の胸の痛み。ズキズキする。痛い。 
    胃潰瘍か? それとも心筋梗塞の前兆? 
    怖くなって、駆け足で帰宅して、布団を被る。

    4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/01/06(日) 23:52:14.91 ID:NVRX8yZB0
    「あ、もしもし? 実は、かくかくしかじかで」 

    不安になった私は、女友達に電話してみた。 

    『なるほど……それはズバリ、恋ね』 
    「はい?」 
    『あなたは彼に、恋をしてるのよ』 

    いやいや、まさか。少女漫画じゃあるまいし。 

    『一緒に帰れなくて、寂しいんでしょ?』 
    「……うん」 
    『彼を盗られて、腹が立ったんでしょ?』 
    「……うん」 
    『それは要するに、ヤキモチを焼いたのよ』 

    ヤキモチ、だと? これが、ヤキモチなのか? 

    『そのくらい、彼のことが好きだったのよ』 
    「そっか……だったら、やっぱり恋したくない」 
    『どうして?』 
    「だって、絶対に相手を幸せに出来ないから」 

    こんな醜い感情は相手を傷つけるだけだ。 
    だいたい、恋人がいる相手に恋するなんて。 
    そんな自分が許せなくて、私は通話を切った。 

    涙が止まらない。悲しくて、苦しくて、辛い。



    5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/01/06(日) 23:54:38.14 ID:NVRX8yZB0
    「よう。昨日は悪かったな」 
    「っ……気に、しないで」 

    翌朝、いつもの調子で声をかけてきた男友達。 
    私は前髪で泣き腫らした顔を隠しつつ。 
    自己防衛の為に彼から距離を取る。保身第一。 

    「なんか顔、腫れてね?」 
    「あ、朝だから、むくんでるだけ……」 
    「なんか目、赤くね?」 
    「け、結膜炎だから、おかまいなく!」 

    結膜炎って。我ながら酷い言い訳で情けない。 

    「……何があった?」 
    「別に、何も……」 
    「どうして泣いてんだよ」 

    気づかれた。当然だ。涙を止められなかった。 

    「……あんたに、関係ないでしょ」 
    「関係ないって……なんだよ」 
    「いいからほっといて!」 
    「放っておけるかっ!」 

    悲しみ、後悔、羞恥、絶望、自己嫌悪。 
    こんな失恋イベントなんて、もう嫌だった。 
    まるでひと昔前の青春ドラマのような一幕。 
    それを鼻で笑っていた私が当事者になるとは。 
    一刻も早く、舞台から降りて、楽になりたい。 

    「私は、あんたの幸せを壊したくないの!」 

    泣きながら叫んだ悲鳴は、紛れもなく本心で。 

    「はあ?」 

    キョトンと首を傾げた彼には伝わらなかった。

    6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/01/06(日) 23:57:12.10 ID:NVRX8yZB0
    「いや、だから、何回も言わせないでよ……」 

    物分かりの悪い男友達。本当に勘弁して。 
    こっちがどんな想いであんな恥ずかしい台詞を口にしたか、ちょっとは考えて欲しい。 
    しかし、先述した通り、我々は個別の自我を持って生きているわけで、意思疎通には言葉によるコミニュケーションが必要不可欠だった。 
    だから私は、ごほんと咳払いをして説明した。 

    「あんたにはもう恋人がいるわけで……」 
    「えっ?」 
    「えっ?」 

    どうにも認識に齟齬があるらしく、尋ねた。 

    「あんた、彼女出来たんじゃないの?」 
    「いや? 出来てないけど?」 
    「だって、クリスマスデートしたんでしょ?」 
    「違う。あれはデートなんかじゃない」 
    「どういうこと?」 
    「告られたけど、振ったから」 

    私の予想は半分当たりで、半分大外れだった。 

    「な、なんで……?」 
    「お前が好きだから」 
    「おっ?」 
    「お前が好きだから」 

    これは全くの予想外。会話をリセットしたい。

    7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/01/06(日) 23:59:51.75 ID:NVRX8yZB0
    「ごめん、ちょっと考えさせて」 

    とりあえず、シンキングタイムだ。熟考する。 
    男友達は別に付き合ってるわけではなかった。 
    クリスマスに告白され、それを振ったらしい。 
    その理由は、私を好きだから。好きだから。 
    私のことが好きみたいだ。私を好きなのだ。 
    よりにもよって、私のことを、好きなんて。 

    「もしかして、ドッキリ?」 
    「そうだとしたら、性格悪すぎだろ」 
    「今なら、あんまり怒んないであげる」 
    「怒らせるつもりはない。マジだから」 
    「なら、最近付き合い悪かったのはなんで?」 
    「クリスマスに告られてから……お前のこと、妙に意識しちまって……悪かったと、思ってるよ」 

    そう語る男友達の顔が、赤いこと赤いこと。 
    どうやら、マジらしい。マジで好きなのか。 
    これは参った。びっくらたまげた。降参です。 
    意識されていたとは。鈍感で大変申し訳ない。 
    さて、困ったことになった。断る理由がない。 
    そもそも、別段困っていない。むしろ嬉しい。 

    「……嬉しい」 
    「っ……お、おう。そうか」 

    思わず独りごちて、じんわり、喜びに浸る。 
    なにせ、私は昨晩、嫉妬に狂った女だ。 
    枕をズタズタに引き裂こうかと思ったほど。 
    それくらい、居もしない恋人を妬んだ。 
    せっせとヤキモチを焼きまくって、自覚した。 

    「私も、あんたが好き」 

    女友達の言葉に嘘はなかった。私は恋をした。



    8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/01/07(月) 00:03:04.91 ID:6HhU37jU0
    「そ、そうか!」 
    「うん……だから、私は今、幸せ」 
    「それなら、良かった」 

    ほっとした様子の男友達に、質問してみる。 

    「……あんたは、今、幸せ?」 
    「ああ。もちろん、幸せだよ」 
    「それなら、良かった」 

    その返答に私もほっとする。上手く出来てる。 
    今この時、この瞬間、私の幸せは相手のもの。 
    相手の幸せも私のもので、お互い幸せだった。 

    「あ、あの、さ……」 
    「ん?」 
    「俺たち、相思相愛なわけじゃん?」 
    「だから?」 
    「だから、その……つ、付き合わね?」 

    まあ、そうなるだろう。想定の範囲内だった。 

    「その前に、警告しとく」 
    「は?」 
    「私、けっこー嫉妬しやすいみたいだから」 
    「お、おう」 
    「思い込み激しいし、協調性皆無だから」 
    「自信満々に言い切ることじゃないだろ」 
    「いつか、あんたにおしっこかけるかも」 
    「自重してくれ。頼むから」 
    「それでも、自信満々に付き合いたい?」 

    すると彼は不敵な笑みを浮かべ、自信満々に。 

    「おう。付き合ってくれ」 
    「不束者ですが、よろしくお願いします」 

    言質を取り、契約は成立し、恋人が爆誕した。 


    【ヤキモチを焼いたら恋人が爆誕した件】 


    FIN

    9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/01/07(月) 00:25:34.95 ID:6HhU37jU0
    おまけ 

    「さて、覚悟はいい?」 
    「考え直すつもりはないのか?」 
    「ない」 

    付き合ってから、ひと月余りが経過した。 
    これまで、私はよく耐えた。本当に頑張った。 
    誠心誠意、清く正しいお付き合いを心がけた。 
    それなのに、この男ときたら。まったくもう。 

    「そもそも、あんたがモテすぎなのが悪い」 
    「それはどうしようもないだろ」 
    「付き合ってから、6回も告られるなんて!」 
    「俺のせいじゃない」 
    「あんたのせいよ! だから、責任とって!」 

    今から私はスケこましの彼氏にお仕置きする。 

    「なあ、やっぱりやめようぜ?」 
    「うるさい! 目を閉じろ!」 
    「マ、マジでやるつもりなのか!?」 

    何を今更。私はもともと、こういう女なのだ。

    10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/01/07(月) 00:27:15.38 ID:6HhU37jU0
    「おしっこかけるかもって、言ったわよね?」 
    「言われたけどさ……」 
    「じゃあ、口閉じて。飲んだら犯罪だから」 

    犯罪と言われ、慌てて口を噤む彼氏。従順だ。 

    「あんた、実はかけられたいの?」 

    返事はない。けれども、彼女だからわかる。 

    「だったら、お望み通りにしてあげる」 

    慈愛を込めて、おしっこをかけると、案の定。 

    「フハッ!」 

    ほら、やっぱり。思った通り。私達は同志だ。 

    「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」 

    その哄笑は悦びの証。私もまた、悦んでいる。 

    「ふぅ……幸せ?」 
    「ああ、幸せだ」 
    「私も、幸せよ」 

    改めて、付き合って良かったと、そう思えた。 


    【尿も滴る良い男】 


    FIN


    元スレ:https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1546785853/

    1: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:42:58.109 ID:avkOkYUL0
    ぼく「どうしても女ちゃんと付き合いたいんだ!だから女ちゃんをオトすハプニングに協力してほしい!」 

    吉田「はあ」 

    ぼく「ぼくのプランはこうだ、次の休日に女ちゃんがいつも通ってるスイミングスクールの帰り道、吉田くん扮する引ったくりが現れる」 

    ぼく「女ちゃんのカバンを奪って逃げようとする吉田くんをぼくが倒す。形だけね」



    2: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:43:32.739 ID:avkOkYUL0
    吉田「うん…」 

    ぼく「もちろんこんな役嫌なのは分かってる、だから3万でどう!?」 

    ぼく「ぼく金はいくらでもあるんだけど女の子との関わり方が上手くなくて…」 

    ぼく「こんな方法しか思い付かないんだ、ダメかな?」 

    吉田「…わかった!」 

    ぼく「ほんとに!?」

    3: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:44:01.445 ID:avkOkYUL0
    吉田「その代わりお金はいらないよ!」 

    ぼく「え?」 

    吉田「お金はいらないから、もしその作戦が成功したら、その…」 

    吉田「友達になってくれない!?」 

    ぼく「友達に?」 

    吉田「ぼく昔から友達が少ないんだ…だから良かったらなんだけど…」

    4: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:44:16.231 ID:5dlFr1610
    た~か~の~つ~め~



    5: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:44:23.061 ID:avkOkYUL0
    ぼく「もちろんだよ!当たり前だろそんなの!」 

    吉田「!」 

    吉田「ありがとう…!」

    6: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:44:42.292 ID:avkOkYUL0
    ー作戦当日ー 

    女「はぁ、今日もスイミング疲れた~」 

    吉田「」スタタタタタタ 

    ガッ ガシッ 

    女「キ゛ャッ!?」 

    吉田「」スタタタタタタタ 

    女「ひっ、ひっ、引ったくり~!!」

    8: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:45:19.613 ID:avkOkYUL0
    自転車チリンチリン 

    ぼく「女ちゃん!」キキ-ッ 

    ぼく「転んでるのかい!何かあったの!?」 

    女「引ったくり!今取られたの!あの人に!」 

    ぼく「なに!?あの野郎!待てー!」ガシャンッ 

    吉田「」スタタタタ(角を曲がる) 

    ぼく「逃すか!」(角を曲がる)

    10: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:45:37.622 ID:P5ZjnDvXd
    た~か~の~つ~め~

    11: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:45:46.598 ID:avkOkYUL0
    ガシャンッ 

    吉田「はぁ…はぁ…」 

    ぼく「吉田くんいい演技だよ!さあ後は任せて逃げて!」 

    吉田「うんっ!」スタタタタタ 

    ー 

    ぼく「はぁ…はぁ…女ちゃん大丈夫?」 

    女「大丈夫だけど、私のカバンが…あのカバンにはお婆ちゃんに貰ったペンダントが!」



    12: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:46:21.799 ID:avkOkYUL0
    ぼく「犯人は逃しちゃったけどカバンなら取り返したよ、ほら」 

    女「え…!」 

    ぼく「たまたま通りかかってよかった」 

    女「あ…ありがとう…ありがとう…」 

    ぼく「いやいや、それよりまた何かあったら不安だし、家まで送ろうか…?」 

    女「…うん\\\」 

    スタスタスタ

    13: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:46:26.376 ID:sa/cHtvja
    た~か~の~つ~め~

    14: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:46:49.088 ID:avkOkYUL0
    30分後 

    ぼく「それじゃまた学校で!」 

    女「うん、今日はありがとね、またメールとかするかも!」 

    ぼく「…うん、またね」ドキドキ 

    ぼく「…」 

    ぼく「吉田くん完璧だよ!まさか本当に上手くいくとは!」

    15: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:47:34.993 ID:avkOkYUL0
    吉田「うまくいってるようで良かったよ!」 

    ぼく「なんだかんだ作戦の場所とかプランも全部考えてもらったけど、センスあるな!」 

    ぼく「吉田くんは親友だ!」 

    吉田「うん!」 

    ぼく「はい、言ってた3万」 

    吉田「いや、お金はいいって…!」 

    ぼく「これはぼくの気持ちだよ、友達としてこんなことしてもらったんだから、お礼させてよ」 

    吉田「そうか…分かった、受け取るよ!」 

    ぼく「うん!今日はありがとう!」

    16: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:47:58.226 ID:avkOkYUL0
    次の日 

    ぼく「吉田くん、女の子へのメールってどうするの?」 

    吉田「どうって…普通に返せばいいじゃん?」 

    ぼく「普通ってなんだよ!適切な返事が分からないんだ!」 

    吉田「なになに、『今度試験勉強手伝ってくれない?』って!?」 

    吉田「すごいじゃん!二人で勉強するの?」

    17: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:48:20.395 ID:avkOkYUL0
    ぼく「いや、まだ決まってないんだけど…なんて返しらいいか分からなくて…」 

    吉田「何って、『もちろん!』でいいじゃん!」 

    ぼく「もちろんかあ…変じゃないかなあ、なんかガッつき過ぎてるようにも見えるし、気持ち悪がられないかなあ」 

    吉田「焦れったいなあ、ぼくが打つよ」ピポパポ  

    ぼく「ああ!なんてことを!」 

    返信女『よかった!どこでする?』



    18: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:48:50.678 ID:avkOkYUL0
    ぼく「ど、どこで…まだうちじゃないよな…図書館なんておかしいかな…」 

    吉田「図書館と…」ピポパ 

    ぼく「ああ!だから勝手に打たないでよ!」 

    返信女『個室あって静かだし、私も図書館がいいと思ってた!』 

    ぼく「……」 

    ぼく「吉田くん…ありがとう…」ウルウル 

    吉田「思い切りが大事だよ、多少差はあっても大抵の選択にはっきりとした間違いはないんだよ!」 

    ぼく「確かにそうだな…迷っていても何も意味ないな」

    21: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:49:05.007 ID:sQzIj7l+0
    デラックスファイターはいつ出るのか

    22: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:49:23.608 ID:avkOkYUL0
    次の日 

    ぼく「吉田くん!」 

    吉田「どうしたの?」 

    ぼく「ありがとう!君のおかげで心に思い切りがついて、昨日は女ちゃんとなんだかスラスラ話せたよ!」 

    吉田「おお、よかった!」 

    ぼく「メールの方もなんだかコツが掴めてきた、君のおかげだ!」 

    吉田「そりゃ友達だから、なんでも力になるよ!」

    23: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:49:42.060 ID:avkOkYUL0
    ぼく「助かるよ!それでまた相談なんだけど…」 

    ぼく「告白、したいんだ」 

    吉田「おお!それは良いことだね、聞いてるとだいぶ仲も深まってるみたいだし!」 

    ぼく「そう、どうすればいいかな…」 

    吉田「じゃあぼくがプラン考えてみるよ!」 

    ぼく「本当!?ありがとう!!」

    24: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:50:08.636 ID:avkOkYUL0
    数日後 

    女「ふふっ」 

    ぼく「ど、どうしたの女ちゃん?」 

    女「まさか数日前までは、まさかぼくくんと二人で遊園地なんて来てると思わなかったからさ」 

    女「こうやって観覧車に向かい合って乗ってるの考えたおかしくて」 

    女「素敵な景色…」 

    ぼく「女ちゃん…好きだ」

    25: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:50:25.656 ID:avkOkYUL0
    女「え?」 

    ぼく「……前から気になってたんだけど、ここ数日、女ちゃんと話して女ちゃんの全てを好きになった…」 

    ぼく「付き合ってください…」 

    女「……ふふっ」 

    ぼく「え…なに…」 

    女「やっぱりここ数日だけでこんな距離が縮まってるのが、なんかおかしくて」 

    女「よろしくお願いします\\\」 

    ぼく「…!!」



    26: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:51:00.540 ID:avkOkYUL0
    次の日 

    吉田「おめでとう!」 

    ぼく「君は神だよ!ありがとう!」 

    吉田「二人のこと応援するよ、大事なのはこれからだから!」 

    吉田「この先何か予定は立ててる?」 

    ぼく「彼女がBLUEっていうバンドが好きなんだけど、その握手会のチケットをこっそり取っといてやろうと思ってる!」 

    吉田「おーいいじゃん!」 

    ぼく「でも人気らしくて抽選になるらしいんだ…二人分取れるかなあ」 

    ぼく「なんにしても吉田くんありがとう、また何か相談するかも!」 

    吉田「うん!」

    27: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:51:50.792 ID:avkOkYUL0
    数日後 

    ぼく「吉田くーん…チケット一枚しか取れなかった…」 

    吉田「そうなんだあ」 

    ぼく「仕方ない、でも一枚はあるし彼女に一人で行ってもらうか」 

    吉田「これあげるよ!」スッ 

    ぼく「え!?握手会のチケット!なんで?」 

    ぼく「もしかして吉田くんもこのバンドのファン!?」

    29: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:52:23.126 ID:avkOkYUL0
    吉田「いや全然知らないバンドだけど…もしかしたらぼくくんが二枚もチケット取れないかもと思って!」 

    ぼく「え、でもあれファンクラブに入会して、且つ数万払わないと抽選に参加できないんじゃ…」 

    吉田「友達だろ!それくらいなんてことないって!」 

    ぼく「いや…それはありがたいけど…ぼくのためにそこまでしてくれたの?」 

    吉田「当然のことだよ!」

    30: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:52:44.648 ID:avkOkYUL0
    ぼく「あ、ありがとう、掛かったお金は返すよ」 

    吉田「お金はいいよ!それよりあんまり喜ばないんだね」 

    ぼく「い、いや本当にありがたいんだけど別にそこまでしてくれなくていいからね!こっちが申し訳なくなるから!」 

    ぼく「お金はもちろん返すよ!」 

    吉田「うん、わかった!」

    33: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:53:28.936 ID:avkOkYUL0
    数日後学校 

    ぼく「彼女が肝試しに行きたいって言っててさ~」 

    吉田「へぇーいいじゃん!お化け屋敷とか?」 

    ぼく「それが困ったもんで彼女結構こだわりあるらしくて、お化け屋敷じゃイヤらしいんだよ」 

    吉田「有名な心霊スポットとかがいいの?」 

    ぼく「多分…でもこの辺でそんなのあるかなあ」

    34: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:53:49.658 ID:avkOkYUL0
    ぼく「パッと調べた限りではないんだよねえ、肝試しのために遠出するのもなあ、でも彼女を喜ばせたいし…」 

    吉田「あっ!それならいいとこがあるよ!」 

    吉田「18時学校集合で!」 

    ぼく「さすが吉田くん!!」



    35: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:54:22.893 ID:avkOkYUL0
    放課後 

    田中「ぼくくん」 

    ぼく「え、なに?」 

    ぼく(珍しいな田中くんが話しかけてくるなんて) 

    田中「家こっちだよね?歩きながら話そう」 

    ぼく「う、うん…」 

    スタスタ 

    田中「最近吉田くんと仲良さそうだね」

    37: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:54:48.226 ID:avkOkYUL0
    ぼく「ああ、まあ、色々あって…」 

    田中「どうして最近よく話すようになったの?」 

    ぼく「どうって…内緒だよ?」 

    ぼく「女ちゃんと付き合うための作戦に協力者がほしかったんだけど、吉田くんってなんでも協力してくれそうじゃん」 

    ぼく「それで声掛けたら以来仲良くなって」 

    田中「ふーん」

    38: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:55:17.455 ID:avkOkYUL0
    田中「彼と関わっていて、おかしなことはない?」 

    ぼく「おかしなこと?」 

    田中「あいつはどんな奴?」 

    ぼく「どんなって…無茶苦茶いい奴だよ」 

    田中「そうか」 

    ぼく「何が言いたいの?」 

    田中「あいつには気をつけた方がいい」

    39: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:56:12.411 ID:avkOkYUL0
    ぼく「はあ?」 

    田中「俺は彼と幼馴染で、小さい頃よく遊んでたんだ」 

    田中「関わり始めて数日は何事もなかったんだよ、でも幼いながらすぐに変な奴だって思った」 

    田中「あいつはよく動物を殺してたんだ」 

    田中「最初は俺のもとに嬉々としてやってきて目の前でカマキリやらバッタやらを千切って見せてきた」

    40: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:56:46.466 ID:avkOkYUL0
    田中「俺は気持ち悪かったんでやめるよう言ったけど、空返事だったよ」 

    田中「小学校に入るとカエルだったり、蛇だったり、殺す生き物の幅が増えた」 

    田中「ある日吉田くんを含めた数人を家に入れたことがあるんだ」 

    田中「みんなが帰ったあと俺が飼ってたハムスターに爪楊枝が刺さって死んでた」 

    田中「その日吉田くんは仕切りにトイレに行くと行って部屋を出て行っていたのを覚えてる」

    42: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:57:42.795 ID:avkOkYUL0
    ぼく「まさか…吉田くんがそんな奴だったなんて…」 

    ぼく「でも気を付けろって…ぼくはペットを飼ってないし…」 

    田中「昔彼を知ってる奴はみんな離れていったんだ、誰もあいつと友達になってくれないんだ」 

    田中「そんなことが続いたからあいつも警戒してる、また一人になるんじゃないかって」 

    田中「そんな時に君が話しかけてきた、彼は喜んだだろうけど、その一方で君を離さないと固執しただろうね」



    46: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:58:38.439 ID:avkOkYUL0
    田中「何をしてでもぼくくんを離さまいとするが故に何をしでかすか分からないよ」 

    ぼく「ちょっと待ってよ…その話が本当だとして、君になんでそんなことが言えるんだ」 

    田中「君と同じような奴が過去にいたんだ」 

    田中「ひとりぼっちの吉田くんを気遣って、話しかけるようになった奴がいた」 

    田中「その男は吉田くんに同情したんだ、自分がイジメられているから、孤独な人間の気持ちがわかると」

    48: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:59:23.431 ID:avkOkYUL0
    田中「吉田くんとその男は仲良くなったがある日、男をイジめていた主犯格が死んだ」 

    田中「その後主犯格と一緒に連んでた奴らも大怪我で病院に運ばれた」 

    田中「犯人は未だに分かっていない…でも恐らく吉田くんだろう」 

    ぼく「そんな…」 

    田中「俺から言わせれば彼はサイコパスだよ、覚えておいてほしい、知性は優れているが平気で嘘をつくし、平気で生き物を殺す」

    50: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 02:59:54.194 ID:avkOkYUL0
    田中「出来るならば関わらないようにするべきだ」 

    ぼく「……」 

    ぼく「わかった…ありがとう…」 

    田中「それじゃまた明日」

    52: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 03:00:30.217 ID:avkOkYUL0
    夜 

    ぼく(とは言うものの会う約束してしまったからなあ…) 

    ぼく(この先どうすればいいんだ…) 

    吉田「ぼくくん!」 

    ぼく「!」ビクッ 

    ぼく「よ、吉田くん」 

    吉田「ん?なんかあった?」

    56: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 03:01:18.168 ID:avkOkYUL0
    ぼく「いやいや何もないよ…さあ行こう」 

    吉田「…うん…」 

    数分後 

    スタスタ 

    ぼく「これ…どこ向かってるの?」 

    吉田「肝試しにとっておきの場所だよ!多分全然知られてない」 

    ぼく「た、確かにこんな山奥だと誰も知らないだろうけど…どうしてこんな場所を?」

    57: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 03:01:56.555 ID:avkOkYUL0
    吉田「もう少し先にある大きな家なんだけど、最近惨殺事件があってね」 

    吉田「それってすごく怖いでしょ?最近人が死んだ家だなんて!」 

    吉田「ぼくくんの彼女が求めてるスリルってそういうことでしょ?」 

    ぼく「…その惨殺事件って犯人捕まってる?」 

    吉田「ん?いーや?」 

    ぼく「……」 

    吉田「どうしたの?今日なんか暗いね~」



    59: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 03:02:46.784 ID:avkOkYUL0
    スタ 

    ぼく「その……」 

    ぼく「吉田くんは…人殺したりしてないよね…?」 

    吉田「……」 

    吉田「なにその質問?」 

    ぼく「いや…その、噂なんだけど、そういう話聞いちゃって」 

    ぼく「ぼくは吉田くんを友達だと思ってる、だからそんな話信じちゃいないんだけど…」

    61: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 03:03:27.705 ID:avkOkYUL0
    吉田「誰がしてたの?そんな話」 

    ぼく「……えっと」 

    吉田「田中くんじゃない?」 

    ぼく「え……」 

    吉田「そうでしょ?」 

    ぼく「うん……」 

    吉田「はぁ…そうか、そりゃ信じるよね、彼話上手いから」

    63: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 03:04:09.239 ID:avkOkYUL0
    吉田「良かったらどんな話だったか聞かせてくれない?」 

    ぼく「…わかった」 

    5分後 

    ぼく「それでその子をイジめていた犯人を殺したのも君じゃないかっていう…」 

    吉田「なるほど」 

    ぼく「どう?この話違うよね?」 

    吉田「はぁ…違うというかその…」 

    吉田「その話丸っきり本人の話だよ」

    64: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 03:05:11.860 ID:avkOkYUL0
    ぼく「え?」 

    吉田「ぼくたちが幼馴染なのは事実だし昔よく遊んでたのも事実だよ」 

    吉田「だけどそれ以外は全部田中くんが自分でやってたことさ」 

    吉田「彼はすぐに生き物を殺した…そう、昔は虫だったり爬虫類だったり」 

    吉田「小学の時には学校で飼ってるウサギや鯉を放課後学校に戻ってきて尖らせた竹で数匹刺し殺したらしい」

    65: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 03:05:46.382 ID:avkOkYUL0
    ぼく「ほんとに…?」 

    吉田「そしてイジメられてた男の子がいたって言ったけど、それは田中くん本人だよ」 

    吉田「いじめっ子を殺したのはイジメられていた田中くんだ」 

    吉田「彼の言ったと通り確かにぼくは友達が少ないが彼も友達が少ない」 

    吉田「彼が自分をいじめてた相手を殺したっていう噂はすぐに流れたからさ」 

    吉田「これは推測だけど、田中くんは同じ一人ぼっちの仲間として見ていた僕がぼくくんとつるむようになったことに嫉妬しているんだ」



    66: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 03:06:47.364 ID:avkOkYUL0
    吉田「僕との関係を終わらせようとさせるためにそんなことを…」 

    ぼく「……」 

    ぼく「吉田くん、悪かった」 

    ぼく「あんなに助けてもらったのに、酷いこたを聞いたね」 

    吉田「いや、僕も聞いてきてくれて良かったよ、これでスッキリした!」 

    吉田「田中くんも可哀想な奴なんだ、明日三人で話し合おう!」 

    ぼく「そうだね」

    67: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 03:07:20.826 ID:avkOkYUL0
    次の日 

    ぼく「吉田くん昨日の廃墟よかったよ~また週末に彼女と行ってみることにするよ」 

    吉田「そりゃ良かったよ!」 

    担任「お前ら席につけー」 

    担任「えーみんな落ち着いて聞いてほしい…うちのクラスメイトである田中くんが、昨晩亡くなった」 

    ぼく「え?」

    68: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 03:07:56.951 ID:avkOkYUL0
    ザワザワ 

    担任「先生も急なことで驚いている…原因はまだ分かっていないが詳しいことは後日説明する」 

    担任「先生達もバタバタしててな、とりあえず一限目は休講だ」 

    ガラガラ 

    ぼく「………」 

    ぼく(田中くんが死んだ…このタイミングで…?)

    69: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 03:08:27.858 ID:avkOkYUL0
    ぼく(どうすればいいんだ…昨晩っていつのことだ…ぼくたちが解散したあとか…?) 

    ぼく(これじゃまるで犯人は…) 

    ぼく(だめだ…吉田くんの方を見れない……)バクバク 

    吉田「ぼくくん…まさかだったね…」 

    ぼく「!!」ビクッ 

    吉田「ごめん、驚かしたかな」 

    ぼく「い、いや……」

    70: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 03:09:14.822 ID:avkOkYUL0
    吉田「これじゃまるで、田中くんの言った通りじゃないか…」 

    ぼく「………」 

    ぼく(田中「覚えておいてほしい、知性は優れているが平気で嘘をつくし、平気で生き物を殺す」「出来るならば関わらないようにするべきだ」) 

    吉田「どうしたの?震えてるよ?」 

    ぼく「ちょっと、今日早退するよ……」 

    吉田「待ちなよ!一限目が休講なだけでまだ学校あるよ」ガシッ



    71: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 03:09:36.257 ID:avkOkYUL0
    ぼく「!」ビクッ 

    ぼく「は、離せ!!」バシッ 

    吉田「…!」 

    ぼく「…」スタスタスタ 

    吉田「……」

    73: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 03:10:07.566 ID:avkOkYUL0
    家 

    ぼく「どうしよう…警察に言っても証拠があるわけじゃない…」 

    ぼく「ぼくが…田中くん言葉を信じていれば…」ガクガク 

    ぼく(ぼくはこの日ゆっくりこの先の生き方について考えた) 

    ぼく(もちろん悲しかったけど正直田中くんとの思い出が深いわけではないので涙は出なかった) 

    ぼく(考えたのちにぼくは自宅に逃げ帰ったことを後悔した) 

    ぼく(逃げても何も意味がない、明日から吉田くんと出来るだけ関わらないように、正々堂々生きよう) 

    ぼく(そう決めた)

    74: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 03:10:49.361 ID:avkOkYUL0
    次の日 

    ぼく「おはよー」 

    ザワザワ 

    ぼく「ん?」 

    「きたよ人殺しがw」 

    「平気な顔してら~w」 

    ぼく「え?え?」

    77: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 03:11:48.388 ID:avkOkYUL0
    陽キャ「お前が田中くん殺ったんだってな」 

    「ちょっとやめなよ~」 

    ぼく「な、なんの話?」 

    陽キャ「出ました~な、なんの話?w」 

    陽キャ「よくそんな顔できんなサイコw」 

    ぼく「ちょっと待ってよ…ぼくが田中くんを…?」 

    陽キャ「人殺し!人殺し!ウェイ、人殺し!」 

    サイテ-… クスクス… ゴニョゴニョ…

    78: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 03:12:22.905 ID:avkOkYUL0
    ぼく「な……な……」 

    ぼく(あとで知ったことだがクラスのグループラインに田中くんをバットで暴行する動画が貼られたらしい) 

    ぼく(動画の右下にはずっとぼくの名前が表示されていた) 

    ぼく(グループに入ってくるなり動画を貼った者はすぐに退出したらしい) 

    ぼく(彼らにとって証拠なんてどうでもいい、欲しいのは叩くべき相手なんだ)

    79: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 03:13:18.712 ID:avkOkYUL0
    ぼく(たった一つの動画で、ぼくはイジメの標的となった) 

    ぼく「なんでこんなことに…ぼくが何したって言うんだ…」 

    ぼく「女ちゃん…女ちゃんに電話しよう」 

    プルルルル 

    女「もしもし」 

    ぼく「女ちゃん…その、ごめん、なんかぼく目の敵にされてるみたいで」 

    女「いや…私はあんな動画信じてないんだけど、あんなことできないだろうし」

    80: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 03:13:53.094 ID:avkOkYUL0
    ぼく「ほんと!?」 

    女「いや、ただ吉田くんから色々聞いたんだけど、なんか私と付き合うために偶然装った演技みたいなことしてたらしいね」 

    ぼく「へ?」 

    女「その後も告白だったりデートのプランも全部考えてもらって、ほとんど吉田くんの考えだって聞いたよ」 

    ぼく「あぁ…えとそれは…」 

    女「本当ってことだよね、だって証拠音声も聞かせてもらったし」



    81: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 03:14:24.310 ID:avkOkYUL0
    女「あんたが吉田くんにせっせと作戦話してるところも、デートプラン聞いてるところも」 

    ぼく「……嘘だろ……」 

    女「なんかちょっと、引いたわ」 

    ぼく「ち、ちがうんだよ…ぼくは…」 

    女「何が違うのかわかんない、もういいから、バイバイ」 

    プツン 

    ぼく「あっ……」 

    ぼく「………」

    83: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 03:15:16.674 ID:avkOkYUL0
    学校 

    陽キャ「ほら、絵の具の水汚くなったから新しいのに変えてこい」スッ 

    ぼく「……」 

    陽キャ「早く行けよ!」 

    ぼく「うん…」スタスタスタ 

    陽キャ「あ、ごめん足が滑った」 

    ガッ 

    ぼく「うわっ!」

    86: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 03:15:45.441 ID:avkOkYUL0
    バッシャ-ン 

    陽キャ「ごっめーんwビショビショになっちゃったねw」 

    周り「クスクス…w」 

    陽キャ「掃除するからその制服脱げよw」 

    ぼく「…うっ、うう……!」ガッガッ 

    陽キャ「抵抗すんなよ!お前の制服なんかモップみたいなもんだろ」 

    陽キャ「お前にイジメられてた田中くんはもっと辛かったんだぞ!w」

    88: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 03:16:14.623 ID:avkOkYUL0
    ぼく「うぅ……ううう……!」ガガッ 

    陽キャ「おいお前らこいつ抑えろ!w」 

    ガシッガシッ 

    ぼく「うわああああああ!!」グワッ 

    陽キャ「うわっ、なにこいつキモっ!」 

    ズズズズ 

    ぼく「ああああああああ!!」 

    陽キャ「離せカス!押すなって!!」 

    ガシャンッ パリ-ンッ 

    「キャー!!」 

    …… 


    89: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 03:16:54.434 ID:avkOkYUL0
    数日後 

    生徒A「いたよ、あいつだ」 

    生徒B「あの一人で座ってる奴か?あいつが何したの?」 

    生徒A「最近陽キャ君にイジメられてたみたいなんだけど、この前ブチギレて陽キャ君を窓ガラスに押し付けたらしい」 

    生徒A「その時割れたガラス片が数枚陽キャ君の頭に刺さって、今も意識不明の重体らしい」 

    生徒B「ヒェッ…あいつの仕業だったのか…」

    91: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 03:17:34.141 ID:avkOkYUL0
    生徒B「あいつなんか雰囲気が似てんだよなあ、この前死んだ田中って奴に」 

    生徒A「そうそう田中も仲良いのかあーやってチラチラ吉田を睨んでたんだよ、同族嫌悪って奴なのかな」 

    生徒B「あの吉田って奴も結構一人でいることが多いよな」 

    生徒A「噂じゃあいつは昔から嫌われてきたから、できた友達を過剰に大切にするらしい」 

    生徒A「その一方で裏切られたと思ったら急に冷めるともいう」

    93: 以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします 2019/02/06(水) 03:18:46.411 ID:avkOkYUL0
    生徒B「なんかサイコみたいだな」 

    生徒A「本当にそうで、昔からよく生き物を殺してたらしい」 

    生徒A「生き物を殺すのに躊躇がなくて、趣味で人殺しをやってるとか」 

    生徒A「でこの前近くの山奥の大きい家で惨殺事件あっただろ、あいつじゃないかって言われてる」 

    生徒B「バカ言うなよ」 

    生徒A「ただの噂話だってw」 


    おわり
    元スレ:http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1549388578/

    1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/01/05(土) 00:19:41.98 ID:5AyZaIPq0
    「ちゅーすっぞ」 

    初詣に対して、どうしても元日にお参りせねばならないといった強迫観念を持ち合わせて居ない俺たちは、三が日が終わり、丁度良い感じに参拝客が疎らになった頃合を見計らい、今年一年の諸々を神様によろしくお願いしに来た。 
    御手洗で手と口を清め、鈴を鳴らし、たった今、二礼二拍一礼を終えたところなのだけど。 

    「は?」 
    「ちゅーすっぞ」 

    連れがよくわからないことをほざいている。 

    「お前な……神前だぞ?」 
    「だからこそ、ご利益がありそうじゃんか」 
    「ご利益って……絶対バチが当たるだろうが」 

    いくらなんでもこのシチュエーションでキスはあり得ないだろう。しかし、連れは納得せず。 

    「いいじゃん、付き合ってんだし」 
    「その大義名分が通用する場所じゃないだろ」 
    「私とキスしたくないのかよ?」 
    「少なくとも今この場ではお断りだ」 
    「ちぇっ……けちんぼ」 

    ケチじゃなくてエチケットを守ってんだよ。




    2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/01/05(土) 00:22:38.01 ID:5AyZaIPq0
    「んじゃあ、帰ったらちゅーすっか?」 

    参拝を終えて、来た道を帰る道すがら、懲りずにキスの話題を振る恋人を、適当にあしらう。 

    「そういうムードになったら、考えてやる」 
    「なんで偉そうなんだよ? 頭下げろっての」 
    「どうして頭を下げる必要があるんだよ」 
    「せっかく、ちゅーしてやろうと思って提案した私がバカみたいじゃんか」 

    なるほど。どうやら認識に齟齬があるらしい。 

    「いつ、誰が、キスしてくれと頼んだんだ?」 
    「ちゅーしたそうな顔してただろ?」 
    「どんな顔だよ、それは」 

    呆れると、彼女は正面に回り、見つめられた。 

    「……なんだよ」 
    「いひひ……今、私の唇を見てただろ?」 
    「……見たら、悪いのかよ」 
    「別に? てか、私に言うことあるっしょ?」 
    「……意地張って、ごめんなさい」 

    どんなに不本意でもとりあえず謝っておく。 

    「よしよし。それでいいんだよ、それで」 
    「……本当に性格悪いな、お前」 
    「そんな私が好きなんだろ?」 

    まあ、好きだから、付き合ってるわけで。

    3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/01/05(土) 00:26:10.41 ID:5AyZaIPq0
    「ただいま」 
    「おかえり。早かったわね」 

    帰宅すると、リビングから姉が顔を覗かせた。 

    「まあ、空いてたしな」 
    「……あの、お邪魔します」 
    「なんだ、あなた居たの?」 

    誰だお前とツッコミたくなるような彼女。 
    先程までの高圧的な態度はどこへやら。 
    姉の前だと、借りてきた猫のようになるのだ。 

    「あ、明けまして、おめでとうございます」 
    「はい、明けましておめでとう」 

    おずおずと、姉に新年の挨拶をする彼女。 
    そんな挨拶、俺はされた覚えがないけどな。 
    姉は腕を組み、つま先から頭の先まで眺めて。 

    「ところで、どうしたの、その格好は?」 
    「えっ? な、何か、おかしいですか?」 

    今日の彼女の格好はカーキ色のフライトジャケットにダボッとしたジーンズ。いつも通りだ。 
    髪が短いボーイッシュな彼女に似合っている。 

    「初詣なんだから着物くらい着たら?」 
    「いや~実は着物を持ってなくて……」 
    「じゃあ、私のを着せてあげるから来なさい」 
    「ええっ!? そ、そんなの悪いですよ!」 
    「口答えしない! ちょっとこの子借りるわよ」 
    「ほどほどにしてやってくれ」 

    助けを求める視線を向けられても万事休すだ。 
    こうなったら姉は誰にも止められない。 
    連行される憐れな彼女を見送って、ムードもヘッタクレもなくなり、俺は一人で自室に篭って、お色直しをひたすら待つこととなった。

    4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/01/05(土) 00:28:50.40 ID:5AyZaIPq0
    「ま、ざっと、こんなものね」 
    「い、息が苦しい……」 
    「文句言わない!」 
    「は、はひっ!」 

    小言を言われつつも着付けは終わったらしく。 
    俺の部屋に来た彼女は、艶やかな着物姿に。 
    驚きよりも、感心というか、感嘆してしまう。 

    「こうも変わるとは……」 
    「ジ、ジロジロ見んなっ!」 
    「あなた、誰の弟にそんな口利いてるの?」 
    「す、すみません! ごめんなさい! だからお尻はつねらないでくださいっ!!」 

    姉に尻をつねられて涙目の彼女は普段の何百倍も女らしくて、ついつい、胸がときめいた。 

    「た、助けて……!」 
    「あ、ああ。姉貴、そのへんにしとけ」 
    「そうやって甘やかすから駄目なのよ」 
    「お、おう。監督不行き届きで、申し訳ない」 

    何故か俺まで謝る羽目に。姉は鼻を鳴らし。 

    「いい? ちゃんと言いつけ通りにするのよ?」 
    「はひっ!」 
    「本当にわかってるの?」 
    「わかりました! だからお尻だけは……!」 
    「ん。それなら、頑張んなさい」 
    「ひゃんっ!?」 

    何やら問答をしたのち、最後にペチンと彼女の尻を叩いて、姉は俺の部屋から立ち去った。

    5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/01/05(土) 00:31:18.87 ID:5AyZaIPq0
    「あんたのお姉さん、怖すぎ」 
    「慣れるしかない」 
    「……でも、着物貸してくれるとか、良い人」 

    姉に怯えながらも、満更でもない様子。 
    クルクル回って、ご機嫌な彼女。 
    つい、ひらひら翻る振袖に見惚れていると。 

    「見すぎだから」 
    「別に……減るもんじゃないだろ」 
    「それもそうか……んで、私、かわいい?」 

    そう尋ねられたら、首を縦に振るしかない。 

    「……かわいいよ」 
    「よっしゃ!」 

    ガッツポーズする恋人に、グッときた。 

    「なあ……こっち、来れば?」 
    「その言い方、どうにかなんないの?」 
    「……こっちに、来てくれ」 
    「しゃーねーなぁ! ほら、これでいい?」 

    ベッドに横並びに座らせると、胸が高鳴った。



    6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/01/05(土) 00:34:21.17 ID:5AyZaIPq0
    「顔、赤すぎ」 
    「……仕方ないだろ」 
    「まあ、気持ちはわかる」 
    「……わかって、たまるか」 

    普段ボーイッシュな恋人の女らしさとか。 
    そんなマニアックなところに惹かれてしまう男心なんて、女には絶対にわかって欲しくない。 

    「でも、まあ、安心したよ、ほんと」 
    「なんのことだ?」 
    「女に興味ないのかと思ってたからさ」 

    なんだそれは。とんでもない誤解である。 

    「俺はノーマルだ」 
    「でも正直、女の人、苦手っしょ?」 
    「まあ……姉貴が、あんなんだからな」 

    あの姉と暮らしたら、誰でも女を恐れる筈だ。 

    「だから、私はこんな感じであんたに近づいて、付き合ったわけだけど……怒られちった」 
    「怒られたって、姉貴に?」 
    「うん……女を隠すのはズルいってさ」 
    「それで、着物を着せられたってわけか」 
    「今日一日は女らしくしろって言われた」 

    姉貴の奴。弟の恋人に何を言ってやがんだ。

    7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/01/05(土) 00:36:31.32 ID:5AyZaIPq0
    「気にすんな」 
    「でも、事実だから……」 
    「いいんだよ、お前はお前で」 

    我ながら、臭い台詞だとは思う。 
    それでも、本心からの言葉だった。 
    たしかに、こいつは女らしさを隠している。 
    けれど、そのおかげで、非常に楽だった。 
    一緒に居て、気疲れしない関係を築けた。 
    それを姉はズルいと言うが、知ったことか。 

    「俺はそんなお前を、好きになったんだから」 

    全て織り込み済みだ。だから、問題はない。 

    「……どこでそんな台詞を覚えたの?」 
    「ネットを探せばいくらでも出てくるぞ」 
    「……バカ野郎」 

    とんっと、肩に頭を乗せてきた。絶好の機会。 

    「キス、するか?」 

    文句なしの、最高のムード……だと、思ったら。 

    「……めっちゃ、したいけど……今はダメ」 
    「はあ? なんでだよ」 
    「……めっちゃ、おしっこ……したいから」 

    おしっこか。それなら、仕方ないよな。畜生。

    8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/01/05(土) 00:39:27.55 ID:5AyZaIPq0
    「さっさとトイレに行ってこい」 
    「そうしたいのはやまやまなんだけど……」 
    「どうした?」 
    「自分では帯が緩められなくて……」 
    「裾まくって、そのまましろよ」 
    「汚したらどーすんだよ! 切腹ものだぞ!?」 
    「お、おう……すまん」 

    というわけで彼女の花摘みに同行する羽目に。 

    「いいか? 帯は慎重に緩めろよ?」 
    「んな、大袈裟な」 
    「じゃないと、決壊しちゃうからあっ!?」 
    「お、おう……わかった。任せてくれ」 

    トイレの個室内で、俺は慎重に帯を緩めた。 

    「脱いだ着物、持ってて!」 
    「お、おい! 何も全部脱がなくても……」 
    「肌着も長襦袢も汚せないだろ!?」 
    「だからって……お、おいっ!」 
    「なんだよ!? 漏れちまうぞ! いいのか!?」 
    「良くないけど! お前、パンツは!?」 
    「んなもん、ひん剥かれたっつーの!!」 

    どうやら姉は、パンツをひん剥いたらしい。 

    「後ろ向いててするから問題ないだろ!?」 
    「問題だろ! すぐに俺は出てくから……」 

    生尻に耐え兼ねて、個室から脱出を図るも。 

    「ひ、1人にすんなよっ! 泣いちゃうぞ!?」 
    「泣くな! わかった! 傍に居るから!」 
    「じゃあ、手繋いで! どこにも行かないで!」 
    「よしきた! ほら、これでいいか!?」 
    「あー良かった! ほっとしたら、出そう!」 
    「出せよっ! 全部残らず出し切っちまえっ!」 
    「……嫌いに、ならない?」 
    「今更何言ってんだよ!? ならねえよっ!!」 
    「……そういう優しいとこ、ポイント高いぞ」 
    「うるせえ! さっさと出せよ! 出しちまえ!」 
    「せ、急かすなよ! 出るものも出ないだろ!」 

    もう、トイレで何してんだろうね、俺たちは。



    9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/01/05(土) 00:42:08.44 ID:5AyZaIPq0
    「ああ、もう! とにかく!」 

    このままでは埒があかないと判断して、俺は。 

    「とりあえず、黙れ」 
    「ふあっ……!」 

    便座に後ろ向きに座った恋人を、抱きしめた。 

    「もっと、ぎゅっとして……?」 
    「こうか?」 
    「お腹、押すように……んっ。そんな感じ」 

    言われるがまま、彼女の下腹部を圧迫する。 

    「出そうか?」 
    「っ……んなこと、聞くなっ……あんっ」 
    「出た?」 
    「だ、だから、聞かないで……んんっ」 

    おや? なんだか如何わしいぞ。おかしいな。 

    「ほら、出しちゃえよ」 
    「ダメ……恥ずかしいよぅ」 
    「とか言いつつ、楽しんでんだろ?」 
    「それは……自分、だろっ!」 
    「ああ、俺は楽しい。愉しくて、堪らない」 
    「ひぅっ!? この、変態……!」 
    「最高の褒め言葉だ」 

    なんだろう。この征服感。癖になりそうだ。

    10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/01/05(土) 00:43:59.59 ID:5AyZaIPq0
    「ああ、そこぉ……ダメダメ!」 
    「ダメじゃない」 

    下腹部のマッサージのコツはだいたい掴めた。 

    「ほんとにヤバい……ヤバいからあっ!?」 
    「出して」 
    「……やだ」 
    「じゃあ、やめるか?」 
    「やだぁっ!」 

    本当にわがままだな。くっそ可愛いなあもう。 

    「耳とか、かじった方が良さげ?」 
    「やんっ……聞くな、バカ」 
    「では、遠慮なく。いっただっきまーす!」 
    「ひゃうんっ!?」 

    パクリと耳をかじると、ちょろりと水音が。 

    「今、出たよな?」 
    「……うっさい。耳、もっとして」 
    「してください、だろ?」 
    「調子乗んな……あひゃんっ!?」 

    強がっても身体は正直だ。ちょろろろろろん! 

    「ああっ!? 出てる! おしっこ出てるぅっ!」 
    「フハッ!」 

    勝利。その二文字が脳裏に浮かび、哄笑した。 

    「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」 

    もう、誰にも、止められない。勝鬨を上げた。

    11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/01/05(土) 00:47:13.67 ID:5AyZaIPq0
    「ちょっと、トイレで何をしてるの?」 

    ドンドン、と強めのノックと、姉の声が響く。 

    「フハハハハ、ハハハハ、ハハハ……やばい」 

    一気に冷めた。冷水をかけられて我に返った。 

    「……大笑いするから」 
    「だって、仕方ないだろ」 
    「まあ、気持ちはわかる」 
    「わかって、たまるかよ」 

    彼女に叱られつつも、後始末を開始。 

    「ほら、これでさっさと拭け」 
    「……ありがと」 

    トイレットペーパーを手渡すと、拭き始めた。 

    「っ……こ、これは!」 
    「ん? どうかした?」 
    「いや、なんでもない」 

    前傾姿勢になった彼女の生尻が魅力的すぎて。 

    「ちょっと、すまん」 
    「えっ?」 
    「ちゅっ」 
    「うひっ!?」 

    思わずキスしたら最後の尿がちょろりと出た。 

    「フハッ!」 
    「お、お尻にちゅーすんなよっ!?」 
    「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」 

    二度目のフィーバータイム。しかし姉がまた。 

    「今度高笑いしたら、ドア蹴破るから」 
    「あ、はい……すんません」 

    これはマジギレの気配。大人しく沙汰を待つ。

    12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/01/05(土) 00:49:52.99 ID:5AyZaIPq0
    「で?」 
    「俺はただ、トイレの補助をしていて……」 
    「で?」 
    「別に何もやましいことはないと言うか……」 
    「で?」 
    「少なくとも、規制には引っかからないと……」 
    「で?」 
    「申し訳ありませんでしたあっ!!」 

    個室から出たのち、俺は釈明に追われた。 
    法的には、何も問題はない筈だ。健全だった。 
    しかし、姉ルールの前では何もかもが無意味。 

    「何が悪いか、ちゃんとわかってる?」 
    「……まあ、一応は」 
    「私が怒ってるのは女の子を泣かせたからよ」 
    「えっ?」 

    泣かせた? なんだそれはと、思っていると。 

    「ふぇ~ん」 
    「よしよし、怖かったわね」 

    おい、誰だそいつは。くそっ。裏切り者め。 

    「この子は大事な恋人でしょ?」 
    「……はい」 
    「だったら、大切にしなさい」 
    「……はい」 

    いつの世も男は悪者だ。それがこの世の定め。 

    「新年だから、ビンタ1発にしといてあげる」 
    「……勘弁してくれ」 
    「男なら覚悟を決めなさい! いくわよ!」 
    「ぶべっ!?」 

    思いっきり頬を張られて、廊下に転がった。

    13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/01/05(土) 00:54:15.78 ID:5AyZaIPq0
    「しばらく、そこで反省すること」 
    「ふぁい」 

    頬を腫らして、トイレの前で正座していると。 

    「あっぶねー。マジ助かったわ」 

    裏切り者の恋人がヘラヘラと肩を叩いてきた。 

    「……お前なんかもう知らん」 
    「怒んなよ~! ちゅーすっか?」 
    「……する」 
    「なんだよ、やけに素直で可愛いなあ」 

    だいぶ落ち込んでいたので素直に受け入れた。 

    「仲直りの……ちゅー」 

    触れるだけのキス。けれども、長く甘いキス。 

    「それにしても、めっちゃ、愉しかったな!」 
    「ふんっ……そりゃあ、良かったな」 
    「なんだよ、愉しかっただろ?」 
    「……まあ、な」 
    「照れんなよ~! ほら、もっかい、ちゅー!」 

    なんか、キスで誤魔化されている女の気分だ。 
    それでも、怒りや憤りは、消えてなくなった。 
    姉が着付け直してくれた着物のおかげだろう。 
    トイレの芳香剤の香りが、鼻腔をくすぐって。 
    なんだか今年も良い年になりそうだと思った。 


    【仲直りのちゅーはトイレの後で】 


    FIN


    元スレ:https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1546615181/

    1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 20:55:50.41 ID:xUfn4nZb0

    あるさびれた剣術道場── 

    少女「ねぇお父さん! お父さんもチラシ配り手伝ってよ!」 

    少女「いっぱい宣伝して、入門してくれる人を見つけないと!」 

    剣士「あのなぁバカ娘、剣術なんつうもんは人にいわれて始めるもんじゃねえんだ」 

    剣士「こうやって腰をどっしり据えて、入門したい奴を待ってりゃいいんだよ」グビッ 

    少女「腰を……って寝てるじゃない! しかもまたお酒飲んでるし!」 

    少女「この間も久しぶりに入門希望者が来たのに、すぐ辞めさせちゃったし……」 

    剣士「一発ブン殴ったぐらいで逃げ出すような奴は、俺の弟子にはいらん」グビッ 

    剣士「なんたって人を殺す技術を教えるわけだからな」 

    少女「あ~もう! こんなんだから、お母さんに逃げられるんだよ!」 

    少女「じゃああたしだけで、行ってくるから!」 

    剣士「あいよ~」グビッ



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    3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 21:00:30.94 ID:xUfn4nZb0

    近くの町── 

    少女「──ったく、もう……」ブツブツ 

    少女「ん?」 



    チンピラ「てめぇジジイ! んな棒切れ持って、どうする気だってんだ!?」 

    老人「わ、わしと勝負せい!」 

    チンピラ「ハァ、ボケてんのか? いいぜ、かかって来いよ」 

    老人「ほりゃあっ!」ブンッ 

    チンピラ「当たるかよ!」ヒョイッ 

    老人(や、やはり……衰えておる。いかんな、このままでは──!) 

    チンピラ「次はこっちの番だなぁ、ジジイ!」ガシッ 

    老人「好きにせい……じゃが、死なん程度に頼む……」 

    チンピラ「上等だっ!」 



    少女「ちょっと待って!」


    4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 21:03:23.78 ID:xUfn4nZb0

    少女「アンタ、若いくせにそんなおじいさんいじめて恥ずかしくないの!?」 

    チンピラ「ハァ? うっせぇ、引っ込んでやがれ!」 

    少女「おじいさん、この棒借りるね」パッ 

    老人「あ」 

    チンピラ「小娘、まさかお前が俺の相手するってか?」


    5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 21:10:26.42 ID:xUfn4nZb0

    少女「ううん、しないよ」 

    チンピラ「あ?」 

    少女「だってアンタじゃ、相手になんないし」 

    チンピラ「ンだと──」 

    ビュビュビュッ! 

    チンピラ「うっ……」 

    少女「今の三連撃、もし当ててたら自分がどうなってたかくらい分かるよね?」 

    チンピラ「は、はい……」ゴクッ 

    少女「じゃあ次にいうべきセリフも分かるよね?」 

    チンピラ「お、覚えてやがれっ!」ダダダッ 

    少女「よくできました~」


    7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 21:15:44.19 ID:xUfn4nZb0

    少女「おじいさん、怪我はなかった? はい、棒返すね」スッ 

    少女(さぁて、今日はどこでチラシ配ろっかな~)クルッ 

    老人「待ってくれんか!」 

    少女「ん?」 

    少女(もしかしてお礼くれんの!?) 

    少女(まいったなぁ~、お礼目当てで助けたわけじゃないんだけど) 

    少女(でもくれるっていうんだからもらわないと、おじいさんにも悪いし) 

    少女(来るものは拒まず、なんていうしねぇ) 

    老人「わしを……わしを弟子にしてくれんか!?」 

    少女「へ?」


    10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 21:21:28.96 ID:xUfn4nZb0

    少女「そんなこと、急にいわれても……」 

    老人「お願いじゃ! 一生のお願いじゃ!」ズザッ 

    少女「で、でも……」 

    老人「どうかわしを弟子に……!」 

    少女(う~ん、まいったなぁ) 

    少女(こんなおじいさんが、お父さんの猛稽古に耐えられるわけない) 

    少女(でも、こんなに頼まれて断るわけにも……ねぇ) 

    少女「おじいさん、弟子にするかは分からないけど……とりあえずついてきてくれる?」 

    老人「おお……ありがとう!」


    12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 21:26:31.08 ID:xUfn4nZb0

    剣術道場── 

    少女「ただいま~」 

    剣士「おう、ずいぶん早かったじゃねえか」 

    少女「あのさ、お父さん」 

    剣士「なんだ?」 

    少女「弟子になりたいって人を連れてきたんだけど……」 

    剣士「弟子にねぇ……どんな奴だ?」 

    少女「え~とねぇ……」 

    少女「あたしよりかなり年上」 

    剣士「かなり……ってことはもう成人か」 

    少女「でね、お父さんよりもかなり年上」 

    剣士「……なんだそりゃ」


    13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 21:32:41.81 ID:xUfn4nZb0

    剣士「ふぅ~ん、門下生になりたいってのはアンタか」 

    老人「わしを……強くしてほしいんじゃ!」 

    少女「お父さん……ダメかなぁ?」 

    剣士「金さえ払ってくれるんなら、だれだって入れてやるよ」 

    剣士「悪党だろうが聖者だろうが、ジジイだろうが……な」 

    剣士「だがよ、突然やってきた年寄りを歓迎するほど無用心でもねえつもりだ」 

    剣士「あとになってわけ分からん事件とかに巻き込まれるのもゴメンだ」 

    剣士「入門の動機くらいは、きっちり話してもらおうか」 

    老人「分かった……全てを話そう」 

    老人「わしが入門を希望する理由は……仇討ちなんじゃ」


    14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 21:40:30.48 ID:xUfn4nZb0

    少女「おじいさん……だれかを殺されたの?」 

    老人「わしは……盗賊に妹を殺されたんじゃ」 

    少女「妹さんを……!?」 

    老人「うむ……」 

    老人「奴は盗みはやるが、殺しはしない、というふざけたポリシーを持った盗賊でな」 

    老人「ある日の夜、わしの家に侵入してきたのじゃ」 

    老人「そして、妹に出くわし──突き飛ばしたのじゃ」 

    老人「盗賊はまさか突き飛ばしたくらいで死ぬとは思ってなかったんじゃろうが」 

    老人「結局、その時頭を打ったのが原因で妹は帰らぬ人となった……」 

    剣士「…………」 

    少女「そんな……」


    16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 21:44:32.68 ID:xUfn4nZb0

    老人「わしは血眼になって、盗賊の行方を探した」 

    老人「するとどうじゃ!」 

    老人「奴は盗賊時代の元手で実業者として成功し──」 

    老人「数々の慈善事業を行い、人々から慕われるようになっておった!」 

    老人「盗人猛々しいとはまさにこのことじゃ!」 

    老人「とはいえ、ああなってしまっては、もはや公に糾弾することはかなわぬ」 

    老人「だからわしは……密かに奴に果たし合いを申し込んだのじゃ!」 

    老人「果たし合いは一ヶ月後──」 

    老人「わしはなんとしても妹の仇を討たねばならん!」


    17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 21:47:24.26 ID:xUfn4nZb0

    老人「じゃが、奴は盗賊時代は名うての剣豪でもあったらしい……」 

    老人「さっきのチンピラにすら歯が立たんようでは、奴に勝つなど夢のまた夢」 

    老人「だから、この一ヶ月間でわしを強くして欲しいんじゃ!」 

    少女「うん……分かった!」グスッ 

    少女「妹さんの仇、討ちたいよね!」 

    少女「あたしたちが絶対におじいさんを強くするよ!」 

    少女「ね、お父さん!」


    19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 21:51:47.60 ID:xUfn4nZb0

    剣士「だるい」 

    剣士「お前がやれ」 

    少女「は?」 

    剣士「教えるだけなら、もうお前でもできるだろ」 

    剣士「お前が連れてきたんだから、お前がやれ」 

    少女「えぇ~……」 

    少女(でもお父さんが教えたら、ヘタしたらおじいさん死んじゃうかもしれないし……) 

    少女「分かった、いいよ!」 

    少女「おじいさんも、それでいい?」 

    老人「ああ、かまわんぞ」 

    少女「じゃあ一ヶ月しかないわけだし、今すぐ始めよう!」


    20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 21:55:29.15 ID:xUfn4nZb0

    少女「おじいさんは剣術やってたことってあるの?」 

    老人「若い頃に……多少はかじっておったな。今はあのザマじゃがのう」 

    少女「じゃあ剣の握り方とかはいいよね」 

    少女「まずは、素振りから始めよう」 

    少女「こうやって体の力を抜いて……こうっ!」ビュッ 

    老人「こうか?」ヒュッ 

    少女「うん、おじいさん、上手上手!」パチパチ 

    剣士「待て」


    21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 21:59:38.99 ID:xUfn4nZb0

    少女「どしたの、お父さん?」 

    剣士「なんだ、上手上手ってのは」 

    剣士「ガキのお遊戯でもやってんのか、このバカ娘が」 

    少女「で、でも、おじいさんにしては上手じゃない!」 

    剣士「剣に年齢は関係ねえって、いつもいってんだろ」 

    剣士「それに剣術は人殺しの手段、褒めて伸ばしたってろくなことはねえんだ」 

    剣士「剣を握るのがイヤになるほどしごくくらいで、ちょうどいいんだよ」 

    剣士「あと、爺さん」 

    老人「なんじゃ?」 

    剣士「なんじゃ、じゃねえだろ」 

    剣士「小娘といえど、こいつはアンタに剣を教える師匠なんだ、敬語を使えよ」 

    少女「ちょっ、お父さん!」


    22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 22:08:16.34 ID:xUfn4nZb0

    少女「おじいさんはあたしどころか、お父さんよりずっと年上じゃない!」 

    剣士「さっきいったばかりだろうが、剣に年齢は関係ねえって」 

    剣士「弟子にとって、師匠は神より偉い」 

    少女(神より偉いってことはないでしょ) 

    剣士「敬意を払う必要もない相手から教わっても、なんも身につかねえだろ」 

    少女「だけどお父さん──」 

    老人「いや、いいんですじゃ」 

    少女「! おじいさん……」 

    老人「あなたのお父さんのおっしゃるとおりですじゃ」 

    老人「それに一ヶ月しかないんですし、しごいてもらった方がいいですじゃ」 

    少女「おじいさんがそういうなら……」 

    少女(まったくお父さんってば……!) 

    少女(門下生とお母さんがあんなことになったからって……!)


    23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 22:11:36.82 ID:xUfn4nZb0

    老人「はっ!」ヒュッ 

    少女「ダメダメ、そんなんじゃ!」 

    少女「もっと腰を伸ばして! 腰が曲がってるのは仕方ないけど、できるかぎり!」 

    少女「さ、もう一回!」 

    老人「とうっ!」ヒュッ 

    少女「ああもう、そうじゃないったら!」ビシッ 

    老人「──あうっ!」 

    少女「あ、おじいさん、ごめんね! 痛かった!?」 

    剣士「いちいち謝るな、バカ娘!」 

    老人「も、もっと強くてもかまいませんぞ?」ハァハァ… 

    剣士「爺さんもいちいち感じてんじゃねえ!」


    27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 22:16:44.39 ID:xUfn4nZb0

    夜になった── 

    老人「いやぁ~……厳しい鍛錬でしたわい」ボロ… 

    少女「はいは~い、夕食ができたよ~!」 

    剣士「本当はメシの支度も、全部爺さんにやらせるもんなんだがな」 

    少女「だってあたし一人で準備した方が早いし、美味いし」 

    少女「お父さんだってその方がいいでしょ?」 

    剣士「まぁな」 

    少女「おじいさんも疲れ果ててるけど、さ、起きて! ご飯食べよ!」 

    老人「は、はい……」ヨロヨロ…


    28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 22:23:48.03 ID:xUfn4nZb0

    老人「うん、うまいですじゃ!」ガツガツ 

    老人「おかわりをいただけますかな?」スッ 

    少女「はぁ~い!」 

    剣士「弟子がおかわりなんてご法度──」 

    少女「いちいちうるさいよ、お父さん!」 

    少女「でもうれしいな、もうずっと長い間お父さんと二人きりだったからねえ」 

    少女「昔は四人で──」 

    剣士「俺もおかわりしとくか」スッ 

    少女「はいは~い!」


    29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 22:26:11.07 ID:xUfn4nZb0

    少女「でもマジメな話、おじいさんけっこう筋いいよ!」 

    老人「こりゃあ、ありがとうございます」 

    少女「明日からも、ガンガン修業つけてあげるからね!」 

    少女「絶対におじいさんを勝たせてあげるから!」 

    老人「……よろしくお願いしますじゃ」 

    剣士「…………」


    31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 22:31:17.75 ID:xUfn4nZb0

    翌日── 

    少女「おじいさん、起きて──って早いね」 

    老人「おはようございます」 

    少女「うん、おはよう!」 

    老人「まずはなにをするのですかな?」 

    少女「えぇ~とね、朝ごはん食べたら、準備体操して、軽~くランニングしよっか」 

    老人「分かりましたですじゃ!」 

    少女「ほらお父さんも起きて! 朝だよ、朝!」ゲシッ 

    剣士「あと5時間……」ゴロン 

    少女「ふざけないで!」ゲシッ ゲシッ 

    老人(おおっ、わしも明日はわざと寝坊してみるかのう)


    32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 22:37:31.62 ID:xUfn4nZb0

    少女「よぉ~し、おじいさん!」 

    少女「どっからでもかかってきてよ! あたしは反撃しないからさ」 

    老人「本当にいいんですかな? 練習用の剣とはいえ、もし当たったら──」 

    少女「当てられるものなら、ね」 

    老人「よぉ~し!」 

    老人「てりゃあっ!」ブンッ 

    少女「よっ」ガッ 

    老人「そりゃ!」ブオンッ 

    少女「とっ」サッ 

    老人「だりゃあっ!」ブンブンッ 

    少女「はっ」カンッ 

    老人「おお、まったく当たりませんな!」 

    少女「えっへっへ~、すごいでしょ、おじいさん!」 

    老人「す、すっごいですわい!」 

    老人(この子、とてつもなく強いのう! 若い頃のわしでもかなわんかもしれん!)


    33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 22:40:19.59 ID:xUfn4nZb0

    老人「ふぅ、ふぅ、ふぅ」 

    老人(結局かすりもせんかった……) 

    少女「だいたい分かったよ、どうすればおじいさんを強くできるか」 

    老人「へ? 今のだけで?」 

    少女「おじいさんさ、若い頃剣術やってたっていってたけど……我流でしょ?」 

    老人「そのとおりですじゃ」 

    老人(まさか今のやり取りだけで当てるとは……) 

    少女「だから素振りとかもすぐ上達したんだと思うけど……」 

    少女「やっぱり、力任せに振るくせがついちゃってるんだよね」


    34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 22:43:40.48 ID:xUfn4nZb0

    少女「若い頃はさ、それでもいいかもしれないんだけど」 

    少女「おじいさんくらい年とっちゃうと、それじゃキツイんだよ」 

    老人「なるほど……」 

    少女「ウチの流派のウリは、柔と剛を持ち合わせてるだけじゃなく」 

    少女「柔と剛の割合を自分の適性に合わせられるってとこなんだけど」 

    少女「おじいさんの体力を考えると、柔の割合を多くした方がよさそうだね」 

    老人「そうですのう、よろしくお願いします」ペコッ 

    少女「うん!」


    35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 22:47:27.61 ID:xUfn4nZb0

    少女「柔の剣は……剣も体も心も、やわぁ~らかくするの」 

    少女「ゆら~り、ゆら~り」 

    老人「ほう……」 

    老人(おおお……まるで今にもこの娘が地面から浮き上がりそうな……) 

    少女「──で、このまま流れるように、振るっ!」ビュアッ 

    老人「…………!」 

    老人(全然見えんかった……) 

    少女「一ヶ月で、せめて今のくらいはできるようにならないとね」 

    少女「ガンガンしごくからね、おじいさん!」 

    老人「頼みますわい!」


    37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 22:52:14.18 ID:xUfn4nZb0

    一週間経過── 

    老人「とろ~り、とろ~り」 

    老人「ほいさっ!」ビュンッ 

    老人「どうでしたかな?」 

    少女「う~ん、まぁまぁかな」 

    老人「まぁまぁ、ですか……」 

    少女「でもだいぶよくなってきたって!」 

    少女(あとなんで、とろ~りとろ~りなんだろ?) 

    剣士「…………」


    38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 22:56:18.59 ID:xUfn4nZb0

    少女「どんどん食べてねぇ~」 

    老人「おかわりですじゃ!」サッ 

    剣士「俺も」サッ 

    少女「いやぁ~作りがいがあるよ。あたし、剣術やめて料理で生きようかな」 

    老人「それもありかもしれませんな」 

    剣士「ふん、甘いぞバカ娘、家庭料理とプロはちがうんだ」 

    剣士「ここでならマズイもん作っても俺がキレたり、爺さんが泣くぐらいで済むが」 

    剣士「レストランでマズイもん作ったら、店が潰れるわけだからな」 

    少女「分かってるよ!」


    39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 22:59:13.90 ID:xUfn4nZb0

    少女「ところでさ、おじいさんの妹ってどんな人だったの?」 

    老人「う、うむ……」 

    老人「可愛げがあって……優しくて……よき妹でしたわい」 

    剣士「おい、仇討ちしようって人間にそんなこと聞く奴があるか」 

    少女「あ、ごめんなさい……」 

    老人「ハハハ、かまわんですよ。気にせんで下され」


    40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 23:03:38.81 ID:xUfn4nZb0

    二週間経過── 

    老人「とろ~りとろ~り」 

    老人「ほいやさっ!」ビュッ 

    少女「よしっ! だいぶいい! だいぶいいよ!」 

    少女「ね、お父さん?」 

    剣士「知らん」 

    剣士「お前が教えてんだから、お前が判断しろよ」 

    少女「ったくもう……口だけで、何の役にも立たないんだから」 

    少女「おじいさん、残り二週間は実戦訓練を中心にするよ!」 

    老人「はいですじゃ!」


    42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 23:08:12.37 ID:xUfn4nZb0

    少女「あのさ、おじいさん」 

    老人「なんですかな?」 

    少女「おじいさんのこと“じいちゃん”って呼んでもいい?」 

    老人「へ?」 

    少女「あたしさ、おじいちゃんっていなかったから」 

    少女「けっこうこう呼ぶの憧れてたんだよね~」 

    少女「減るもんじゃなし、いいでしょ?」 

    老人「あなたは師匠ですからな」 

    老人「わしのことをどう呼ぼうともかまわんですよ、もちろん」 

    少女「やったぁ!」


    45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 23:14:40.81 ID:xUfn4nZb0

    少女「じいちゃん、おかわりする?」 

    老人「お願いしますじゃ」スッ 

    剣士「おい、じいちゃんってのはなんだ」 

    剣士「何度もいうが、師弟関係ってのは──」 

    少女「うるっさいな!」 

    少女「お父さんなんか、じいちゃんになんもしてくれてないじゃん!」 

    少女「最近なんか、全然道場にいないしさ!」 

    少女「こうやって生活できてるのもお父さんが国からお金をもらえるほど」 

    少女「昔活躍したからっていうけど、いつまでも遊んでないでよ!」 

    少女「じいちゃんはお父さんじゃなく、あたしの弟子なんだよ!」 

    少女「だからあたしがどう呼ぼうが、あたしの勝手でしょ!?」 

    剣士「ふん……勝手にしろ」


    50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 23:20:24.55 ID:xUfn4nZb0

    三週間経過── 

    老人「とろ~りとろ~り」 

    老人「ほえやぁっ!」ビュッ 

    ガッ! バシッ! ガッ! バシィッ! 

    少女「いいよ、いいよー! よくなってきたよー!」 

    少女「でもまだ甘ーい!」ビシッ 

    老人「はうわっ!」 

    老人(た、たまらん……)ハァハァ 

    少女「もう残り一週間しかないんだからね! さあもういっちょう!」 

    老人「はいですじゃ!」


    52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 23:26:55.95 ID:xUfn4nZb0

    少女「は~い、今日の夕ご飯だよ」 

    老人「いただきますですじゃ!」ガツガツ 

    剣士「まあまあだな」モグモグ 

    少女「たまには褒めてよね、お父さん」 

    剣士「ふん」 

    剣士「ところで爺さんの仕上がりはどうなんだ?」 

    少女「そりゃもう、だいぶよくなってきたよ! もうあたしと出会った時とは別人!」 

    老人「これも師匠の腕がよかったからですわい!」 

    剣士「そうか」 

    剣士「ただしこれだけはいっておく」 

    剣士「剣ってのはしょせん先に一太刀入れた方がだいたい勝つ」 

    剣士「たとえ歴戦の達人だって、ド素人にうっかり心臓を刺されりゃ死ぬんだ」 

    剣士「せいぜい油断せんことだ」 

    老人「もちろんですじゃ!」 

    少女「よくいった、じいちゃん!」


    53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 23:28:49.03 ID:xUfn4nZb0

    剣士「あ~食った食った、寝るか」スタスタ 

    少女「おやすみ、お父さん!」 

    老人「それではわしも寝させてもらいますわい」ペコッ 

    少女「うん、おやすみ、じいちゃん!」 

    少女「さぁ~て、あたしも寝るかな」スッ 

    少女「…………」


    57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 23:34:30.14 ID:xUfn4nZb0

    剣士『剣ってのはしょせん先に一太刀入れた方がだいたい勝つ』 

    剣士『たとえ歴戦の達人だって、ド素人にうっかり心臓を刺されりゃ死ぬんだ』 

    剣士『せいぜい油断せんことだ』 



    少女(そうだよね……) 

    少女(じいちゃんは仇討ちのために修業してるんだよね) 

    少女(果たし合いは当然、剣で行われる) 

    少女(剣で行われる以上、どっちかはまちがいなく死ぬ) 

    少女(じいちゃんが死ぬことになるかもしれない……) 

    少女(いやいやいや!) 

    少女(そうならないよう、修業してるんじゃない!) 

    少女(あたしがじいちゃん信じないでどうすんの!)


    59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 23:38:37.90 ID:xUfn4nZb0

    果たし合いまで残り三日── 

    少女「よぉし、今日はこれまで!」 

    老人「ありがとうございます」 

    少女「決闘前に大怪我してもまずいし、残りの日は軽い練習で調整しよう!」 

    少女「最高のコンディションで当日を迎えなくちゃね!」 

    少女「大丈夫、じいちゃんのとろ~り剣なら絶対勝てるから!」 

    老人「…………」 

    少女「じいちゃん?」 

    老人「はいですじゃ! もちろん勝ってみせますですじゃ!」 

    老人「なにしろ妹を殺したにっくき仇ですからのう!」 

    少女「うん!」


    60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 23:41:38.11 ID:xUfn4nZb0

    少女「どんどんおかわりしてねぇ~!」 

    老人「うん、うまいですじゃ!」ガツガツ 

    剣士「まあまあだな」モグモグ 

    少女「あのさ、じいちゃん」 

    老人「なんですかな?」 

    少女「仇討ち……やめることはできないかな?」 

    老人「なぜ……ですかな?」 

    少女「いや……少し前にお父さんもいってたけど……」 

    少女「やっぱり剣と剣の戦いって、なにが起こるか分からないし……」 

    少女「もし、じいちゃんが斬られちゃったら、あたし悲しいしさ……」


    62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 23:45:31.56 ID:xUfn4nZb0

    剣士「なにいってやがる、バカ娘」 

    剣士「爺さんは、老後の健康のために剣術やってるわけじゃねえんだぞ」 

    剣士「果たし合いのことは最初から承知だったはずだろうが」 

    少女「そんなこと分かってるよ! 分かってるけどさぁ……」 

    老人「申し訳ないですじゃ……」 

    老人「わしは……どうしてもこの果たし合いだけはこなさなければならんのですじゃ」 

    老人「無念を晴らすためにも……」 

    少女「分かったよ……ごめんね、じいちゃん」 

    老人「いえいえ、お気持ちはありがたくいただいておきますじゃ」


    63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 23:48:53.97 ID:xUfn4nZb0

    果たし合い前日── 

    少女「よぉ~し、ここまで!」 

    少女「疲れを残したら元も子もないからね! 休息もりっぱな修業!」 

    老人「はいですじゃ!」 

    少女「じいちゃんは前よりずっと強くなったよ!」 

    少女「自信を持って!」 

    老人「もちろん、この一ヶ月のことは絶対無駄にはしませんわい」 

    少女「じいちゃん……」


    64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 23:52:52.83 ID:xUfn4nZb0

    少女「ねえ……あたしじいちゃんのこと、本当のおじいちゃんみたいに思ってたよ」 

    少女「大好きだよ、じいちゃん」 

    老人「わしもこの一ヶ月……」 

    老人「師匠と孫が同時にできたような気分でしたわい」 

    老人「わしには孫はおろか、子もおりませんでのう……」 

    老人「本当に……心が癒やされる一ヶ月じゃった」 

    少女「あとは妹さんの無念……晴らそうね!」 

    老人「……もちろんですじゃ!」


    66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 23:54:33.55 ID:xUfn4nZb0

    少女「じゃああたし寝るね、おやすみ~!」スタスタ 

    老人「おやすみなさいですじゃ~!」 

    剣士「…………」 

    剣士「爺さん」 

    老人「はい?」 

    剣士「ちょっと話がある」 

    剣士「来てくれないか」 

    老人「…………」


    68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/01(月) 23:59:36.10 ID:xUfn4nZb0

    ── 
    ──── 
    ────── 



    果たし合い当日── 

    少女「おっはよ~!」 

    老人「おはようですじゃ」 

    剣士「ん」 

    少女「お、珍しくお父さんも早いじゃん。雪でも降らなきゃいいけど」 

    剣士「うるせえ」 

    少女「じゃ、さっそく朝ごはんにしよっか!」


    71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/02(火) 00:07:21.18 ID:CzCvpeHK0

    少女「じいちゃん……決闘は今日の正午に、向こうの河原で、だっけ?」 

    老人「うむ、あそこなら人通りも少ないからのう」 

    老人「邪魔が入ることなく、雌雄を決することができるはずじゃ」 

    少女「じいちゃん……死んじゃダメだよ」 

    老人「…………」 

    剣士「おい、爺さんはこれから決闘するんだ」 

    剣士「勝負に絶対はねぇ、死ぬかもしれないに決まってんだろ」 

    剣士「そんなことも分からねえのか」 

    少女「わ、分かるけどさぁ」 

    剣士「だったら、いらない言葉をかけるんじゃねえよ」 

    少女「……ごめん」


    72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/02(火) 00:13:09.66 ID:CzCvpeHK0

    少女(じいちゃん……勝てるかなぁ) 

    少女(強くなったとはいえ、やっぱり体力面では不安があるし……) 

    少女(相手がどのくらい強いかも分からないし……) 

    少女(死なせたくないよ) 

    少女「あのさ……」 

    少女「仇討ちって、なにも自分の手でやる必要はないよね?」 

    少女「なんたって相手は物を盗んで、人を殺して、平気な顔してる悪党だし」 

    少女「だから……あたしに戦わせてくれないかな?」 

    剣士「…………」ピクッ


    76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/02(火) 00:20:52.59 ID:CzCvpeHK0

    剣士「今さらなにいってんだっ!!!」 

    少女「!」ビクッ 

    剣士「たった一ヶ月一緒に暮らしただけのお前が」 

    剣士「爺さんの人生に首突っ込んでんじゃねえ!」 

    剣士「お前は以前、俺に爺さんは自分の弟子だとタンカを切ったな」 

    剣士「剣術やる奴なんてのは、大抵の場合戦いってもんに身を委ねるようになる」 

    剣士「本能的に自分の腕を試したくなるし、名声を得れば狙われるようになるからな」 

    剣士「つまり弟子をとるってことは──」 

    剣士「ある意味では戦いとは無縁の一般人を、戦いの世界にいざなうってことだ」 

    剣士「まして爺さんは、最初から今日決闘するという決意を固めていた」 

    剣士「いざとなったら、爺さんの代わりに自分が戦えばいい」 

    剣士「お前はそんな生半可な気持ちで爺さんを弟子にしたってのか!?」 

    少女「ちがう! ちがうけどさぁ……!」


    78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/02(火) 00:25:30.49 ID:CzCvpeHK0

    老人「師匠、あなたのお気持ちはよく伝わりました」 

    老人「この老いぼれに、一ヶ月間、剣をお教え下さり本当にありがとうございます」 

    老人「しかし、ここからはもう、わしの仕事です」 

    老人「……では、行ってきますじゃ」ザッ 

    剣士「ああ」 

    少女「じいちゃん……」


    79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/02(火) 00:31:54.36 ID:CzCvpeHK0

    ── 
    ──── 
    ────── 



    剣士「……正午だな」 

    剣士「今から河原に向かえば、ちょうど決着する頃だろう」 

    剣士「行くぞ」ザッ 

    少女「う、うん……」 

    少女(じいちゃん……)トクン… 

    少女(じいちゃん、じいちゃん、じいちゃん……)ドクン… 

    少女(じいちゃん、じいちゃん、じいちゃん、じいちゃん、じいちゃん!)ドクンドクン… 

    少女(神様、どうか仇を討たせてあげて!)ドクンドクン…


    81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/02(火) 00:36:31.32 ID:CzCvpeHK0

    河原── 

    若者「はぁ、はぁ、はぁ……」 

    若者(た、倒した……!) 



    少女「じいちゃん!」ダッ 

    剣士「…………」ザッ 

    若者「!」 

    若者(だれだ!? この人たちは!?) 

    少女「じいちゃん……!」ウルッ 

    少女「じいちゃん! じいちゃん! じいちゃぁん!」グイッ 

    少女「目、覚ましてよ!」 

    少女「起きてよぉっ!」ギュッ…


    83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/02(火) 00:40:46.90 ID:CzCvpeHK0

    剣士「…………」 

    若者「あなたたちは……!?」 

    剣士「この爺さんと……縁があるもんだ」 

    若者「!」ザッ 

    剣士「そう警戒しなくていい。何もしやしねえ」 

    剣士「仇は……討てたようだな」 

    若者「はい……」 

    少女(え!?)


    84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/02(火) 00:47:03.70 ID:CzCvpeHK0

    剣士「もし差支えがなければ……聞かせてもらえるか?」 

    剣士「アンタと……この爺さんの因縁について」 

    若者「…………」 

    若者「……分かりました、お話しします」 

    若者「ぼくは……幼い頃妹を家に侵入してきた賊に殺されました」 

    若者「以来、かすかに覚えてる人相、なぜぼくは殺されなかったのか、など」 

    若者「わずかな手がかりを頼りに、犯人を探し続けました」 

    若者「同時にガムシャラに剣の修業をしました。妹の仇を討つために……」


    87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/02(火) 00:49:53.65 ID:CzCvpeHK0

    若者「そしてようやく、犯人を特定することができました」 

    若者「犯人は“盗みはすれど、殺しはせず”をポリシーとする盗賊だったのです」 

    若者「これで、ぼくが殺されなかった理由も分かりました」 

    若者「しかし犯人は──すでに盗賊をやめ、大実業家となっていた」 

    若者「その上、大勢の恵まれない人を救う……慈善事業のカリスマとなっていた」 

    若者「妹を殺した人間が……平然と人助けをしている」 

    若者「複雑な心境でしたが……ぼくはどうしても彼を許すことができなかった」


    88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/02(火) 00:55:22.95 ID:CzCvpeHK0

    若者「かといって……大勢の人々に慕われる彼に、もはや手の出しようはありません」 

    若者「ぼくは復讐を諦めてかけていた」 

    若者「──そんな時でした」 

    若者「彼から……手紙が来たんです。果たし合いをしよう、と」 

    若者「もちろん罠だと思いました」 

    若者「正々堂々の一騎打ちなどありえない」 

    若者「おそらくは、自分の犯した唯一の殺しを知っているぼくを抹殺するためだと」 

    若者「でも、ぼくはこれが罠だろうとなんだろうと、どうでもよかった」 

    若者「妹を殺した犯人に、自分の憎しみの一端でもぶつけたい」 

    若者「そう思い……果たし合いに応じたんです」 

    剣士「……で、勝利した、というわけか」 

    剣士「その傷を見るに、なかなか手こずったようだな」 

    若者「はい……かなりの使い手だったと聞いていましたが、年老いた今もここまでとは……」 

    剣士(爺さん……)


    89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/02(火) 00:58:32.27 ID:CzCvpeHK0

    … 

    …… 

    ……… 

    老人「話とは、なんですかな?」 

    剣士「今は敬語じゃなくていい、そっちのが話しやすい」 

    剣士「アンタの師匠は俺ではなく、娘だしな」 

    老人「…………」 

    剣士「爺さん、アンタ死ぬ気だな?」 

    老人「……いつから気づいておった?」 

    剣士「最初からだ」 

    剣士「ああこの爺さんは死のうとしてる、って直感した」


    90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/02(火) 01:04:42.84 ID:CzCvpeHK0

    剣士「さらに入門の理由を聞いた時、その直感はおそらく正しいと分かった」 

    剣士「盗賊について話すアンタは、犯人への憎悪というより」 

    剣士「むしろ自分の行いに悔いているような話し方だった」 

    剣士「んで、娘に妹のことを聞かれて、言葉に詰まったのを見て確信した」 

    剣士「爺さん、アンタは死んだ妹のことなんか全く知らない」 

    剣士「アンタこそが盗賊だ、と」 

    老人「……口が悪いだけの男ではないと思っとったが、さすがじゃのう」 

    老人「さすがは師匠の父親じゃ」


    92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/02(火) 01:09:48.02 ID:CzCvpeHK0

    剣士「……で、アンタが娘と修業してる最中、色々調べさせてもらった」 

    剣士「妹の仇討ちのため、剣の修業をし、犯人を探していた若者のことも」 

    剣士「カリスマ実業家が突然引退し、行方をくらましたことも裏付けが取れた」 

    剣士「アンタがウチに入門した理由は──」 

    剣士「仇討ちのため力をつけた若者に、相応しい実力を身につけたかったからだな?」 

    老人「そのとおりじゃ」 

    老人「わしは盗賊をやってた頃、ある家に盗みに入った」 

    老人「その時、あの若者と妹に見つかってしもうたのじゃ」 

    老人「わしは若者の妹を突き飛ばし、逃げ、しばらくしてその子が死んだことを知った」 

    老人「盗みはすれど殺しはしない、という身勝手な矜持が崩壊した瞬間じゃった」 

    老人「その後、わしは罪を償うため……いや、自分の心を軽くするため」 

    老人「盗賊をやめて商売を行い、その金で慈善事業に熱中したが」 

    老人「いつまでたっても胸が晴れることはなかった」


    94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/02(火) 01:16:29.90 ID:CzCvpeHK0

    老人「じゃがそんな時、妹の仇を探しているという若者のウワサを聞き──」 

    老人「わしはやっと、自分の罪を償う方法を見つけられた気がした」 

    老人「そして調査の末、彼こそがわしが殺した女の子の兄だと確信し」 

    老人「密かに果たし状を送ったのじゃ」 

    老人「しかし、復讐に身を捧げてきた若者を迎え討つには──」 

    老人「わしのせいで、人生を狂わされた若者の宿敵を務めるには──」 

    老人「わしはあまりにも弱くなりすぎておった」 

    老人「試しにそこらのチンピラに喧嘩を売ってみたら、まったく勝負にならんほどにな」 

    老人「だから……その時わしを助けてくれたおぬしの娘さんに……」 

    老人「弟子入りしたいと頼んだんじゃ」 

    老人「わしは……おぬしら父子を自分の過去の清算に利用しようとしたんじゃ……」 

    老人「すまん……!」 

    剣士「……気にすんな、爺さん」


    96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/02(火) 01:21:48.33 ID:CzCvpeHK0

    老人「そして、今になって分かったことがある」 

    老人「……おぬしの心遣いには感謝せねばならん」 

    剣士「?」 

    老人「おぬしがわしをまったく指導しなかったのは」 

    老人「おぬしから直接教わってしまえば、わしは流派の正式な門下となる」 

    老人「そうなれば……わしが若者に討たれた時、おぬしは流派の長として」 

    老人「“流派の敵”である若者を殺さねばいけなくなる……」 

    老人「だからわしを、娘さんに任せたんじゃろう?」 

    剣士「……深読みしすぎだ、爺さん」 

    剣士「剣には殺し殺されがつきもの、親しい人間が死ぬことだって日常茶飯事」 

    剣士「バカ娘の教育に、死にたがってるアンタは格好の教材になると思っただけだよ」 

    剣士「自分が剣を教えた人間の死、なんてなかなか味わえるもんじゃないからな」


    98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/02(火) 01:27:52.62 ID:CzCvpeHK0

    老人「ま、そういうことにしておくかのう」 

    老人「ところでこれはわしの勘じゃが、もうおぬしの妻は──」 

    剣士「…………」 

    剣士「俺の弟子に殺され、弟子は俺が殺した」 

    老人「!」 

    剣士「師匠(おれ)は寛大だから、と妻に関係を迫った弟子が、拒絶され妻を斬った」 

    剣士「上下関係をきっちりつけず、弟子になめられた俺のミスだった」 

    剣士「娘の中じゃ……今でも二人は駆け落ち中だ」 

    老人「……そうじゃったか」 

    老人「さてと、これは一ヶ月剣を習った代金じゃわい」ジャラ… 

    老人「ぜひとも娘さん……いや師匠に伝えてくれ。楽しかった、ありがとう、と」 

    剣士「ああ、伝えておくよ。安心して死んでこい」 

    ……… 

    …… 



    101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/02(火) 01:34:44.56 ID:CzCvpeHK0

    少女「じいちゃん……!」グシュッ 

    若者「…………」 

    若者「ぼくは……間違っていたんでしょうか」 

    剣士「さあな」 

    剣士「仇討ちをして心の底から気分が晴れたって奴も知ってるし」 

    剣士「気分が晴れるどころか、罪悪感にさいなまれて自殺した奴も知ってる」 

    剣士「仇討ちをしなきゃならなくなった理由が、そもそも自分にあるっていう──」 

    剣士「大バカ野郎も知ってる」 

    剣士「この爺さんがアンタの妹を殺したのは紛れもない事実だ」 

    剣士「それは爺さんが慈善事業で何万人救おうが、消えることはねえ」 

    剣士「そして、この爺さんが死んで悲しむ人間がいるってのもまた事実だ」 

    剣士「間違いかそうでないかは──」 

    剣士「自分で決めな」 

    若者「は、はい……」


    103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/02(火) 01:39:40.15 ID:CzCvpeHK0

    若者「君……」 

    少女「え?」グシュッ 

    若者「幸い、ぼくが死んで恨みを持つような人間はいない」 

    若者「もし君が望むなら、この場でぼくを──」 

    少女「ううん」ゴシゴシ 

    少女「だって……じいちゃん、こんなに満足そうに眠ってるんだもん」グスッ 

    少女「じいちゃんは……やりきったんだよ……」 

    少女「だから……もうこの話はここで終わり」 

    少女「それよりあたしは……じいちゃんをちゃんと弔ってあげたい……」グシュッ 

    剣士「──だ、そうだ」 

    剣士「行きな。この爺さんのことは、後はやっておく」 

    若者「はい……」 

    ザッ ザッ ザッ……


    106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/02(火) 01:45:35.31 ID:CzCvpeHK0

    剣士「ほれ」ジャラッ 

    剣士「お前の剣士としての──初めての報酬だ」 

    少女「受け取れないよ……じいちゃん、負けちゃったんだし……」ヒック 

    剣士「あの爺さんはお前との日々を“楽しかった、ありがとう”っていってた」 

    剣士「その代金だと思え」 

    少女(じいちゃん……!) 

    少女「分かった……だったら受け取るよ」 

    少女「あたし、このお金で……じいちゃんに……立派なお墓作ってあげなきゃ……」 

    剣士「ああ、それがいい」 





                                         おわり


    107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/02(火) 01:47:19.60 ID:khAZfUMy0

    この剣士好きだわ


    108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/02(火) 01:48:10.19 ID:hbwCR9Dp0

    おつよかったぜ


    109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/02(火) 01:48:26.89 ID:ILZWzPVq0

    乙でござった


    110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/02(火) 01:49:14.27 ID:Hng9oc740

    まじ乙


    111: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/02(火) 01:51:03.68 ID:khAZfUMy0

    乙 
    やっと寝られる


    112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/02(火) 01:51:58.96 ID:sXEAZLkQ0

    乙 
    面白かった


    113: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/02(火) 01:54:20.23 ID:79+v9sP00

    乙乙


    114: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/02(火) 02:00:51.75 ID:GvYj3L4KO

    乙乙乙


    115: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/02(火) 02:04:28.21 ID:VrZ98vs90

    乙 
    良いオチじゃねえか


    116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/10/02(火) 02:06:56.59 ID:H1lBILrG0

    VIPに相応しくない良い話だった



    元スレ:http://viper.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1349092550/

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